第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「私が死ねば、9代目への反逆と見なされます。今度こそお咎めなしじゃ済まされないですよ」
「代わりは幾らでも用意してやる」
「私の生命活動が止まった時点でボンゴレに通知されるように細工してあります」
「死にてぇのか」
「脅しに屈しない人間ですみません」
ベルフェゴールは言葉を失っていた。他の者たちも同じだった。
いま、XANXUSと話しているのは“彼らが知っている氷雨”ではない。それよりももっとタチが悪くて、意地の悪い女である。顔だけは彼らの知っている氷雨のままだが、中身が違いすぎていた。
XANXUSは暫く黙りこんだ後に、ゆっくりと銃口を下げていく。どうやら撃つ気はなくなったようである。彼は視線を地に落とすと肩を震わせた。氷雨はそんなXANXUSの様子を真顔で見ながら、静かに唇を開いた。
「これが箱入りの小娘のやり方です、ボス」
「……くっ……くくっ………ぶはーっはははは!上等だ、小娘!」
XANXUSは堪え切れなくなった様子で笑い声を上げた。先程までの不機嫌そうな雰囲気とは雲泥の差である。スクアーロ達が、ぽかんとした表情でXANXUSに目を向ける中、彼は一頻り笑った後に銃をホルダーに戻して氷雨を見据えた。その口元には笑みが刻まれている。
「その書類には、監視する間は幹部と同等の地位に置かれる、と書いてあるな」
「はい、そうです」
「任務中に命を落とす分には仕方がねぇ。そういうことだな」
「そうなりますね」
「死ぬ覚悟をしておけ」
「はい、そうします」
氷雨は表情を一度も崩さずに言い切った。それでXANXUSは納得したと見て、広げていた書類を丸め始める。
XANXUSは「おい、小娘」と彼女を呼んだ。
「なんでしょうか」
「ちったぁマシになったようだな」
「お褒めいただき光栄です」