第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「大人しく消されるつもりはありません」
「氷雨……?」
氷雨は口元から笑みを消したかと思えば、マーモンが今まで見た事がないような凛々しい表情でまっすぐにXANXUSの瞳を見据えた。あの真紅の瞳を見据えるなど、並大抵の人間ができることではない。
マーモンには彼女が言っていることの意味がわからなかった。コメータファミリーに帰れば金輪際ヴァリアーにもボスにも関わらずに平穏無事に過ごせたはずである。
「俺は気が長くねぇ。遺言があるなら早めに済ませろ」
「遺言にする気はないですけど……そうですね。話は早いに越したことはありません」
XANXUSは既にホルダーに入った銃に片手を添えていた。このまま撃つ気は満々である。しかし、この前まで目障りで使えないと思っていた少女の様子がおかしい。己に向ける怯えの色もなければ繰り返される謝罪の言葉もない。その真意を知る為の時間であれば、少しは待ってやろうと彼は思ったのだ。無論、この後彼女がくだらない話をすれば一瞬で片を付けるつもりである。
氷雨はコートのポケットから一枚の書類を取りだすと、その場にいる全員が見られるようにそれを両手で広げた。XANXUS以外の人間は思わず息を呑む。書類の一番上には、見覚えのある炎――9代目の死炎印、だ。
「9代目から命を受けました。私が、今後のヴァリアーを監視します」
「……ナヌ!?」
「なんだとぉ!?」
「……氷雨ちゃんが、」
「オレらの監視役……?」
「それでお咎めなしだったのか……」
「だからどうした」
XANXUSは愛用の銃をホルダーから取り出すと氷雨の額に銃口を突き付けた。一切無駄のない動きの前で、氷雨は書類を広げたままの状態で微動だにしない。視線を動かす余裕すらないようだ。
ベルフェゴールは思わず「ちょっと、ボス!!」と叫んでいた。しかし、彼の制止も虚しくXANXUSはトリガーに指をかける。