第6章 【04-前編】零時の鐘が鳴るまで
「そういえば、」と言って次の話題を出したのはルッスーリアだった。
「スクアーロから聞いた?氷雨ちゃんのこと!」
「ああ、キャバッローネに保護を頼んだんだってね」
「そうそう。9代目は何も言っていなかったけどコメータに戻ったのかしら」
「普通に考えれば、そうなるんじゃないかな」
「ちょっと残念よね。ねえ、ベルちゃん?」
「……」
ルッスーリアとマーモンが話している間で、ベルフェゴールは黙りこんでいた。その表情は決して明るいものではない。ルッスーリアに話を振られると、彼は「なんでオレに聞くんだよ」と機嫌が悪そうな様子で返答した。
マーモンは、やれやれと心中で再びため息を吐く。ルッスーリアもわざわざ触れなくていい話題に触れるものだ。マーモンは傍観を決め込む。
「つか、もっかい連れてくれば同じことだろ」
「……もう一回同じことをするつもりかい、ベル」
思わず言葉が口から出ていった。驚きとも呆れとも取れるような声色でマーモンがそう言うと、ベルフェゴールは「それがなにか?」と言い出しそうな顔で頷く。この少年はまったくもって反省もしていなければ学習もしていないのだろうか。マーモンは頭痛がするような気がした。
この返答には話題を振ったルッスーリアも驚いたようで、あんぐりと口を開けている。
「ベルちゃん……さすがにそれはまずいわよ?」
「次はちゃんとあのシスコン脅してくるって。まかしとけ」
「あのねベル、そういう問題じゃないよ」
「じゃ、どーいう問題?」
あっけらかんとベルフェゴールは問う。口調こそ軽いものの、その表情はいつもよりも少しだけ固かった。
拗ねているのかしら、とルッスーリアは思う。
「しばらく手を出さない方がいいわ。今度こそ処刑されちゃうわよ?」
「ししっ、オヤサシイジジイにそんなこと出来んのかね」
「周りが黙っちゃいないさ。不祥事も3回目はまずいよ」
「なんだよ。そんなに反対なの?」
ベルフェゴールは不満そうな顔をした。己の要求が通らないときに拗ねる子どもと同じ表情である。
マーモンは彼の顔を見上げると、おもむろに口を開く。