第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「やっぱり帰んのか?」
「リボーンさん。……はい、ご馳走様でした」
日が傾き始めた頃、竹寿司からこっそりと抜けだした氷雨をリボーンが呼び止めた。氷雨は驚いた顔をしたが、すぐににっこりと微笑む。
リボーンは、少しだけ残念そうな顔をした。
「お前、意外と頑固だったんだな」
「みたいです。自分でも驚きました」
「ツナのファミリーはどうだ?良いファミリーだっただろ」
「生憎良いファミリーの基準がわからないので、そこは判断しかねますが」
氷雨はそこで一度言葉を切ると、どこか遠くを見るように瞳を細めた。その瞳には憧憬に似た切なさも混じっていたのかもしれない。
「普通の子達は、あんな風に笑ったり泣いたりするんですね」
「お前には縁遠い環境だったかもしれねーな」
「はい、びっくりしました。まるで違う世界みたいで……楽しい子達ですね」
「それはそうだな」
氷雨はくすっと笑った。こうも簡単に宴会に紛れ込めるとは思っていなかったのだ。もちろん「誰ですか?」という質問は受けざるを得なかったものの、リボーンやディーノが知り合いだと口添えしてくれたことはとても大きかったと思う。
リボーンは、てくてくと氷雨の前まで歩いてくると彼女に向かって「しゃがめ」と言った。彼女は首を傾げながらも言う通りにしゃがむと、彼は一つの指輪を彼女に差し出す。氷雨は思わず息を呑んだ。
「それ、は、」
「黎人から預かってきた。お前に託してくれ、との事だ」
「そんな!あり得ません、これは……こんなもの、」
「お前が渋ったら、こう言うように言われたぞ。“この指輪を護ること。ボス命令だ”ってな」
「そんな……」
氷雨はリボーンから押しつけられた指輪を受け取るしかなかった。細やかな装飾の施されたそれを、彼女は何度か目にしたことがあるが、こうして触ったのは初めてだ。