第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
銀の簪で纏められた黒髪。瞳も同じ色。恐らく日本人で間違いないだろう。日焼けとは縁のなさそうな白い肌。真っ白なブラウスと真っ赤なフレアスカート。見れば見るほど普通の女性だった。昨日まで戦っていた黒ずくめの連中とは大違いである。
「それじゃ、あなたも、その、そっちの……?」
「はい。そっちの人です」
「(そんなあっさりーー!)」
「昨日は勝ったとお聞きしました。おめでとうございます」
「え!?あ、いや、そんな喜ばしいことじゃないんですけど」
綱吉が複雑そうな表情になると女性はまたきょとんとした顔になる。勝って嬉しくないというのは、やはり珍しい感想なのだろう。綱吉は慌てて言葉を繋いだ。
「あ、その!オレ、10代目になる気とかないんで!」
「勝ったのに?」
「アレは……10代目になりたくて戦ったわけじゃないんです」
「相手の方は10代目になりたくて戦ったのでは?」
「それは、そうだろうけど……」
ぞくり。綱吉の背筋に冷たいなにかが走った。得体の知れない、敵意に似たなにかを向けられているような、そんな気がした。
氷雨は首を傾げたままだ。綱吉に助け舟を出すように、リボーンが氷雨の肩に飛び乗った。
「あんまり苛めてやるなよ、氷雨」
「あ…すみません。お疲れのところにこんな話をしてしまって」
「い、いえ、全然」
「でも一応同業者ですし、仲良くしてくださいね?」
「(だから10代目にはならないって言ってるのにー!)」
やはり他人の話を聞いていないっぽい氷雨の様子に、綱吉は思わず心の中でツッコミを入れる。
「んじゃ、顔合わせも済んだし出掛けるぞ」
「出掛ける?なんでだよ?」
「今日はパーティーだそうですよ。楽しみですね」
「パーティー?え、あの、というか、一緒に行くんですか…」
勝手に玄関へ向かい始めてしまった氷雨とリボーンの背を見送りながら、綱吉はボソボソと呟くことしかできなかった。
初対面のはずなのに、彼女をそのまま受け入れられない自分がいて、彼は戸惑っていた。あんなに普通な女の人に向かって、なにを考えているんだろうと思う。マフィアだからって関係ない。ディーノさんのような良い人がたくさんいることを、自分は知っているはずなのに。