第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「おはようございます、沢田綱吉さん」
「え、あ、おはよう、ございます……?」
沢田綱吉は思わず首を傾げる。一階に下りてきたら相変わらずの面々と何故かランチアがじゃれ合っていた。そして、彼がランチアと話をし終えると、急に縁側の方向から声を掛けられたからだ。まるで鈴が転がる様な、とでも言えばいいのだろうか。知り合いの声でないことは彼にもすぐにわかった。
声が聞こえた方向へ首を捻ると、やっぱりそこには見覚えのない女性がいた。にこりと女性が微笑んだので、綱吉はなんだか気恥かしくなってペコっと軽く会釈をした。
「なんだツナ、照れてんのか」
「なっ!別に照れてないよ!挨拶されたら会釈くらいするだろ」
「かわいい方なんですね」
「照れてませんよ!?」
綱吉が思わずツッコむと女性はきょとんとした顔をする。
……初対面の人に何やってんだろう、と彼が自己嫌悪に陥り始めると、些か暗くなった空気をぶち壊すようにクスクスと笑い声が響いた。縁側に座っている女性が、笑ったのだ。なにが可笑しいのかは綱吉にはわからなかったが、彼女は確かに笑っていた。
「ふふっ、訂正します。楽しい方ですね」
「あ、どうも。えっと、ありがとうございます?」
「いえ、どういたしまして」
にこりと笑うその顔立ちは、同年代の少女たちよりも少し大人びているように綱吉は感じた。しかし、ビアンキほどの大人っぽさというか色気のようなものは感じない。西洋人と日本人の違いはあるにしろ、ビアンキと同年代くらいの人なのかな、と彼は思った。
「あの、あなたは……その、どなたですか?」
「あ、名乗るのが遅くてすみません。鈴川 氷雨といいます。リボーンさんの知り合いです」
「リボーンの…!?」
女性は変わらぬ様子で笑う。しかし、綱吉にはその笑顔が些か怖いものに見え始めていた。『リボーンの知り合い』という単語が示す意味を、彼はよくわかっているのだ。所謂、そっちの人間なのだろう、たぶん。そうは見えないけど、と思いながら綱吉は改めて女性の姿をまじまじと見た。