第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
傘下のファミリーからボンゴレ本部……まして、ボンゴレ10世の側近に抜擢となればコメータファミリーの格も上がるに違いない。
「……どうして私にそんな話を頂けるんですか?」
この状況で、元ヴァリアー隊員である自分に誘いが来ることが氷雨には解せなかった。直接沢田綱吉に勝負を吹っ掛けたわけではないにしろ、彼女がヴァリアーの隊員であったという事実は変わらない。警戒するならともかくとして、ファミリーに誘うとは普通では考えられない。
リボーンはきょとんとした顔をすると「わからねーのか?」と首を傾げた。氷雨は思わず視線を逸らす。まったく予想が付かないわけでは、ない。彼女は諦めたように笑う。
「私がコメータに戻らないこと、わかっているんですね」
「ああ。オレもそうした方がいいと思ってるからな」
「……あの子は、黎人は私に執着しすぎています。今回の件が良い教訓になりました」
それは此方の世界の人間が持つには、あまりに不釣り合いな感情だと氷雨は思った。
それとも、自分がヴァリアーに入っていなければ。裏の裏の世界まで足を突っ込んだ人間でなければ。あるいは、結果も変わっていたのかもしれない。
「私は、あそこに帰るべきじゃない」
それは、彼女が自分で考えて出した結論だった。
屋敷で過ごした約一週間の間に、彼女は悟っていた。奇異の視線と畏怖の感情ばかりを向けられて過ごした時間。氷雨がコメータファミリーに戻ることは、無用な混乱を生んだだけだったのだ、と。無理もない。5年も前から、彼女がヴァリアーに入隊することを止める者は弟である黎人以外に一人もいなかったのだから。
黎人が『姉を取り戻そう』と思った気持ちが間違いなのではない。彼がその意思を貫こうとするには、あまりに立場が悪かった。それだけの話である。己の屋敷で起こった混乱を鎮めるだけの度量も能力も今の彼にはなかった。
弟のためを思うなら。ファミリーの未来を思うなら。氷雨はコメータファミリーに戻るべきではないのだ。