第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
昔は温厚で大人しかった弟の意外な行動力に氷雨は苦笑いをこぼすしかなかった。
「あいつ、わかってたみてーだな。犯人の姿も見てねーのに“ヴァリアーの奴らだ”と真っ先に言ったらしい」
「他に出てくる名前がなかったんでしょう」
「オレは、そうは思わねーぞ」
それまで笑顔で話していたリボーンが、不意に真面目な顔になる。
氷雨は彼が言わんとしていることがわからずに「どういうことですか」と言って不思議そうに首を傾げた。生まれてこの方、実家かヴァリアーにしか身を置かなかった。黎人の口からヴァリアーの名が出たことに彼女は何の疑問も感じない。他に選択肢がないのだから。
リボーンは少しの間黙っていたが、ふっと笑った。
「それよりディーノから話は聞いたんだな」
「え……はい。彼が知ることは、たぶんすべて」
「今回の件には、お前も関与してたのか?」
「……していないとは言えません。私が知らないことのほうが多かったですが」
氷雨は眉尻を下げて笑う。ゴーラ・モスカの正体、9代目の影武者の件、リング争奪戦を行った理由……知らないことだらけだった。漠然と『XANXUSは再びクーデターを起こす気で各所に根回しをしている』と思っていた彼女は、自分が思っている以上にXANXUSが周到な計画を立てていたことを今になって知ったのだ。
「私はボ……XANXUSがいなくなってから入隊したので、信用されていなかったのだと思います」
「そうか。まあ、あいつならそれくらい用心しそうだな」
「ええ」
「ディーノからお前の話も聞いたぞ。覚悟は決まった、と言ったらしいな」
「ああ……はい。そのつもりです」
「お前からそんな台詞が出るとは思ってなかったぞ。どういう心境の変化だ?」
リボーンはニヤリと笑みを浮かべながら氷雨に問いかけた。その表情には好奇心が見え隠れしている。
氷雨は思わず笑ってしまった。そう、彼女も思っていなかった。いつか自分の口からこんな台詞が出るだなんて。