第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
氷雨が連れてこられたのは、見知らぬ街の見知らぬ一軒家だった。見た目は一般人の住居である。すっかり夜は明けているがまだ早朝ということもあり、辺りに人影はない。
氷雨は黒塗りの車から降りると、車内で眠ったせいで節々の痛む体を大きく伸ばす。
「ひさしぶりだな、氷雨」
「っ!……リボーンさん?」
「お、ちゃんと覚えてたか」
「こんなに特徴的な方は忘れられません」
門の上に立っている赤ん坊――リボーンを視界に捉えて、氷雨は困ったように笑った。ほぼ5年振りといったところだろうか。相変わらずの姿で彼はそこに立っていた。
リボーンは門から飛び降りると「まあ入れ」と言って、一軒家の扉を開く。勝手知ったる様子である。
「いいんですか?」
「他に静かに話せる場所がねーんだ」
「……では、お邪魔します」
氷雨は大人しく一軒家の中へ足を踏み入れる。玄関や庭の様子と言い、何から何まで一般人の住居にしか見えない。不法侵入をしているような気分になりながら玄関で靴を脱いでいるときに、彼女はふと気付いた。ここまで送ってくれたディーノがついてきていない。
氷雨が扉を開けて車のほうを確認すると、後部座席で欠伸をしているディーノが彼女に気付いて笑顔で手を振った。早く行け、ということらしい。どうやら彼はついてくる様子がないようである。リボーンが「なにしてる。早くしろ」と言うので、氷雨はディーノに軽く会釈をしてから扉を閉めた。
「しばらく起きねーから、こいつのことは気にするな」
「……はあ、そうですか……」
リボーンに案内されて二階の部屋に入ると、ベッドで誰か――部屋の内装を見る限り男の子のようだが――が眠っていた。いよいよ不法侵入者の気分にしかならない氷雨であったが、リボーンが気にするなと言うので気にしないように努めようとした。気配を消すことの出来る職について、この時ばかりは良かったと思う。
テーブルを挟んで、二人は向かい合わせに座った。
「ひとまず無事で何よりだったな」
「あ、おかげさまで」
「黎人のやつが騒いで大変だったぞ。オレのトコまで電話入れてきやがった」
「あはは……騒がしい弟ですみません」
まさかリボーンのところにまで連絡をしたとは。