第5章 不安と混乱。
白蛇さんは、何も言わなかった。
昨日の夜も何もーー
「晃くん……、白蛇さんの所に案内してくれる?」
動揺して、不安が頭を支配するけれど、本当のことなのか確認することからだ。
ここに連れてきた当の本人だけど、神様なのだから頼めば帰してくれるかもしれない。一縷の希望が芽生えた。
晃くんは、まだ暗い面持ちのまま、こちらですと白蛇さんの居るであろう私室へと案内してくれた。
神様の私室なだけあってか、襖も立派であった。
「旦那様、失礼します。様が……」
「いいよ、入って」
部屋の中から白蛇さんの許可の声が聞こえる。
晃くんが襖を開けてくれて、部屋へ入れてくれた。どうやら廊下で待っているらしい。
白蛇さんは奥の書机で、本を読んでいたのだろうか、手には本を持っていた。
「すみません。読書中に……」
「読書よりの方が大切だから。それより話があるんだろう?ㅤ立ったままじゃ落ち着かないから、こっちにおいで」
そう言うと、ちょいちょいと手招きをする。
座椅子を用意してくれて、お礼をし遠慮がちに座った。
キョロキョロと部屋の中を見渡してしまう。
内装は広いけれど、大半が豪華なお屋敷に似つかわしくなさそうな、本棚。入り切らなかったのだろうか、幾重にも重ねられた本が並んでいた。
イメージとの違いに、ここに来たわけを忘れそうになる。
「それで、どうしたんだい?」
はっと我に返る。
「あ……の、さっき晃くんに、私はもう元の世界へは帰れないって聞いて……本当なのか聞きたくて」
まだ頭の中が混乱しているけど。聞かずにはいられなかった。
「あぁ、聞いてしまったんだね」
その返答に、こくりと頷く。
帰れるか、帰れないかだけでも聞きたかった。
しかし、思ったより白蛇さんはすんなりと答えてくれた。
「まあ、帰れないってこともないよ?」
希望が叶うと思い、俯いた顔を上げる。
しかし、そんな気持ちを沈めたのは白蛇さんの次の一言だった。