第1章 みるく
雄一は天井に向かって、はあと大きく息を吐き出した。凝り固まった肩を回す。ふとPCの時計表示に目をやると、既に日付が変わっていて、2時間以上経過していることに気づいた。
4月中旬の土曜日。週明けには、何ヵ月も準備をしてきた一大プロジェクトのプレゼンがある。中堅として、ようやく仕事がまともにこなせるようになってきた雄一に上司がプレゼン役を任せてくれた。
ここで、実績を出せればこれからのキャリアに繋がるはずだと、雄一は、そのために1ヶ月近く仕事に追われていた。
その甲斐があってか、そのプロジェクト案件自体は、プレゼンを待つのみである。そこそこの自信もあった。しかし、通常業務を誰かが代わりにしてくれるわけではない。今はその通常業務の報告書に追われていた。
ただ、疲れや倦怠感以上に、やる気や仕事に対する情熱がいまの雄一にはあった。このところ、仕事に没頭する毎日を過ごしていた。
「寒っ」
ここ最近、冬の寒さがぶり返していて、もう4月だというのに、部屋の温度が低い。ついこの間、電気ストーブを仕舞ってしまったがために、この部屋に暖がとれるものは無かった。雄一はぶるりと肩を震わせた。
あと小一時間ばかりはかかりそうだ。明日も休みなどあってないようなもの。朝はいつもより比較的ゆっくりでいいが、午後から出社して、プレゼンの準備をしなければいけなかった。
青白く光る画面に少し疲れた自分の顔が写った。
(ちょっと疲れたかな。)
そんな感情はすぐに打ち消す。ふと、頭にのことがよぎった。がそれもすぐに打ち消した。
こめかみがきんとして、思わず指で押さえた。
しかし、今何かに気をとられている暇は、
雄一にはなかった。
今回のプレゼン役への代抜擢に、知らず知らずに緊張を感じていた。ほかの同期や先輩からは頑張れよと声をかけてもらえたが、実際のところ腹の内は分からない。自分自身がその立場だったら、と考えると素直に応援できなかった。だからこそ、成功させなければいけなかった。
また、通常業務の滞りが雄一に追い討ちをかけた。同僚が多少手伝ったりしてくれたが、それでも全ては任せられなかった。
キーを叩く音が大きくなる。静かな部屋にその音だけが大きくこだましては、寒さに吸い込まれていた。