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生贄のプリンセス【Fischer's】

第8章 心から愛した


「死にたくない、死にたくない…!!」

そう声を荒げた私を見たワーカの顔から、笑みが消えた。

「ねぇ…これが何かわかる?」
針の先からぴゅっと、液体が飛び出す。
肩で呼吸する私を、彼女はふっと笑った。

「これはね、あなたの大好きな人達のDNAを調合したものなの」

私の大好きな人達───信じたい人達。もう、失いたくない人達。
彼ら以外に思い当たるわけがない。

彼らのDNAなんて、いつの間に?彼らのDNAを調合した液体を私に刺して、何の意味が?疑問が張り巡らされる。

ワーカは液体を凝視する私を見て、待ち侘びていたかのように答え合わせをし始めた。

「イズカがあの城で上手くやってくれて助かったわあ、メイドならDNAなんて採取し放題ですものね?」

「聞くところによるとあの4人は貴女と同じ、能力を持ってるらしいじゃない?しかも、国では一番とも言えるくらいに強い……」

ぺらぺらと喋るワーカは、なんとも嬉しそうな表情だった。
私はまだその表情の意図を掴めなかった。
その言葉を、聞くまでは。


「だからね、貴女に4人のDNAを注入して、世間……いいえ。世界を騒がす最強のウィズドム子を作るのよ…!」


最強のウィズドム子。
それは、私を──。私と彼らを生贄に捧げることを意味していた。

絶望感が胸の奥をじわじわと染めていく。
そんな、そんな。彼らも一緒に生贄に捧げられてしまうの?
どうやったら、死の連鎖は終わるの……?


もう何をしても自分が無力なように感じた。
信じ続けたい。諦めたくない。
微かに光を保っていた心の炎が、ふっと、簡単な一息で消えてしまった。


「あぁ、可哀想にね…あなたにとっての幸せは、ここにあるのよ。すぐに幸せにしてあげるわ……」

気の毒そうな顔をして注射器を持ったワーカが、私の首筋に近づいて来る。
針の先が鋭く光った時、彼女の注射器を持つ手が震えているのに気づいた。
息を呑む。

細長い針の冷たさが肌に触れた、瞬間だった────。
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