第7章 私の王子様
───ワーカはベッドに乱暴に腰かけ、話し出した。
「あなたの故郷では、今大変な事が起こっているのよ。」
ワーカは一枚の記事を私に差し出す。
恐る恐る受け取ると、そこには
〝ウィズドム子が世界からいなくなる可能性も高い?! 人口の減少と同時に〟
なんて題名が大きく書いてあった。
「今、私達の村は例年人口が減ってきているわ。それと共にウィズドム子も。
村の人口を増やす為には、あの村を昔のように有名にするしかないの。」
ワーカは林檎の色をそのまま移したような色の唇をはっきりと動かし、淡々と話す。
私は何も答えることができなかった。
ただ目の前で母親が冷め切ってしまった瞳をして、私と会い一番に話した内容が〝村を再び有名にしたい〟
───という事実を、
早く心の中で処分してしまえよと誰かに囁かれるだけだったから。
処分できる事ならしてるよ。
それよりも何故そこまであの村に執着するのか、私には理解できない。
例えそれが実の娘より大切な物であったとしても、その事実はいつまで経っても飲み込めない。
「そこでね!」
ワーカは私の睨みつけた顔に、ぱっと明るい笑顔を浴びさせる。
嫌な予感がした時には、いつももう遅い。
間に合わなかった。
「あなたの生まれ持った〝能力〟で、私の村を宣伝してほしいのよ!」
心臓が波打つかのようにドクンと音を出す。私の体内で心臓はSOSを出し、暴れ回った。
私はあの村で母、ワーカと約束した。
〝絶対に村の人達に能力の事を教えてはならない〟
何十年もその言いつけを守ってきた私が、何だか馬鹿らしくなった。
何を今更、娘の能力を宣伝に使おうなんて思うのか。
第1彼女は〝能力を持った子が産まれたから、この村に来ればあなたのお子様も天才に〟なんて謳い文句で宣伝でもするんだろうか。
そうじゃなくても、彼女は私と同じような思いを何百人にさせる気だ。
そして何より、ワーカは私の苦しみも何よりも苦かったあの感情も、何にも分かっていない。
あの恐れるような目で見られたあの屈辱を、知ろうともしていない。
「……私は絶対に嫌です」
「母親とも呼べないあなたの商品になる気はありません」
あなたの思い通りのお姫様になんかなるものか。
「もう……もう、私は、あなたに利用なんかされたくない!!」