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生贄のプリンセス【Fischer's】

第4章 いる


そんなシルクの話を聞いているうちに、何だか後ろに人の気配のようなのが感じられるようになった。
パッと勘任せに振り向くと、そこには

「あ、バレちゃいました?」

なんて言って、デジタルカメラを手にしながら はにかむメイドさん。王国の紋章のようなのがキラリと光る名札には、イズカと書いてある。
その後ろには、〝バレちゃったか〟と笑うモトキ。

「なーに撮ろうとしてんだよ」
シルクは 言葉を止めて、ひょいっとメイドさんの手からデジタルカメラを抜き取った。
メイドさんは〝すみません〟と、照れ笑いを浮かべてから 小さく頭を下げる。

その直後、メイドさんは用事があるのかすぐに去っていった。
お人形さんみたいに、まん丸な目。透き通った、白い肌。
印象に残る、理想の顔だったなぁ なんて思う。


そんな余韻にボーッと浸かっていると、いつの間にかモトキが私と視線が合う高さにしゃがんで 隣に来ていた。
突然隣に現れた彼との距離は、どうにも近くて緊張する。

モトキはふっと笑って、私の頭に大きな手を添えてから

「シルク、抜け駆けはダメだよ」
と、優しい笑みとは また違った、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
それとは反対に、シルクは普通の表情で黙ったまま。
その表情からは、どの感情なのかさえ分からない。ポーカーフェイスみたいだ。

モトキは それがいつもの事かのように動じず、ふわりとした笑顔に戻ってから
「恋奈は、まだ知らなくていいよ」
と、私の唇に人差し指を添えた。
さっきの緊張が、ボンッと紅く顔に出る。


まだ、私は抜け駆けの意味も__シルクが黙った意味も分からない。いつか分かる事も、答えを待てずに知ろうとしてしまうのは私の悪い癖だ。

悶々として考え込んでいると、突然ンダホが大きな声を出した。

「そうだ‼︎ 皆で写真撮らない?!」

二人して、ハッと現実に帰ってきたような顔をする。
別の考えをしていたけど、迷路の入口に立ち始めていたのは同じだったみたい。
一方で、ンダホは迷路の出口が分かったような閃き顔をしているけど。

「写真! 普通にいいじゃん」
ぺけが気取り気味に言う。
シルクが〝普通にって何だ、普通にって〟と笑うと、皆もつられて笑う。

そんな環境が、汚い窓を掃除した後にみたいに……
例えるなら、ガラス越しの世界が 一変したようなものだった。
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