第8章 運命論者の悲しみ
「……すまないね、なまえ。」
『……治の考えてることも、わからないわけじゃないの』
「うん」
『組織を抜けたことに後悔なんてない。でも、今でも"彼ら"を大切に思うのは変わらない。今は敵対する組織だとしても……その根本は矢っ張り、変えられないや。家族みたいなものだもん。治を大切に思うのと同じ……龍之介も姐さんも……中也も、ね』
なまえの言葉に、太宰は目を細めた。
「……中也と私が同じ位置というのはなんとも気に食わないね。家族だというなら飼い犬ポジションだよ。私が旦那で芥川君は君の弟だね。そして中也は飼い犬だ。うん、そうに違いない。」
顎を右手で抑えながらぶつぶつそういう太宰を見やり、なまえはくすくすと笑った。
「…あ!やっとなまえちゃん笑ってくれた!」
『あはは、ほんと、治って中也の事となるとムキになるよね』
「五月蝿い。私の前でその名前を呼ばないでおくれよ、はあ」
『はいはい』
なまえは適当に流しながら、太宰が機嫌取りに頼みまくったスイーツたちを平らげた。
「ねえ、なまえ。」
『ん?』
―――中也に、会いたいかい?
喉元まで出かけた言葉を、なまえの言葉が遮った。
『あら、もうこんな時間。そろそろ戻らないと。仕事も残ってるし』
身につけていた腕時計を見て、なまえはゆっくりと立ちあがった。
太宰はそんななまえを見つめながら、はあ、とため息を吐いてから机に突っ伏した。
『行かないの?』
「……パス。新しい自殺法でも試すとするよ」
『あっそう。頑張ってね』
なまえはそう云って、ひらひらと手を振り喫茶処を出て行った。