第8章 運命論者の悲しみ
――喫茶店、うずまき。
「なまえちゃん、今日も君は美しい!嗚呼、美しい人よ!!」
『………』
「なまえちゃんのだ~いすきなチョコレートパフェだよ!」
『………』
「それに今日はこのサンデーもつけちゃう!苺とバナナの!」
『………』
「うわあ、これは凄い!」
『………』
ずらりとなまえの前に並べられたスイーツの数々(すべて太宰のツケ)。しかし、当のなまえはそのスイーツもしつこく喋りかけてくる太宰も無視してツーンと珈琲を飲んでいる。
「……なまえちゃーん?」
『……』
「もしもーし」
『……』
「…怒ってる?…よねえ……」
太宰の言葉に、なまえはぎろりと太宰を睨んだ。
出せる限りの憎しみを込めて眼光を放っているはずなのだが、やっと自分を見てくれたことが嬉しいのか太宰は目を見開いてうきうきしている。そんな太宰の姿に、なまえはため息を吐いた。
「睨んでるなまえちゃんも美しい!嗚呼、眩しい!」
『はぁ……』
―――なまえは、怒っている・・・筈だった。
その原因はこの太宰。
敦と芥川が対峙しているところへ、わざとなまえを行かせない様に嘘を吐いたからだ。
太宰は、ポートマフィア時代からなまえが芥川を特別可愛がっていた事を知っている。
しかし、其れが自分に起因している事も太宰は無論わかっていた。
自分が厳しいが故、彼女がそれをフォローする絶妙なバランスであった、と。
しかしそれは、”上司と部下”それ以上でも以下でもない関係でいればの話であり、芥川がなまえに恋慕を抱いていくのと同時に、徐々にその均等は崩れて行った。
なまえにその気がなかったにしても、彼を弟のように可愛がっていたのは確かで特別な感情があったことには変わりない。
そんな二人が組み合わされば、理性的な状況判断が難しくなる。どうしても私的感情で動いてしまうようになるからだ。
組織を抜けた後はすぐに地下に潜っていたこともありマフィアの人間とは、あれ以来誰とも会っていない。
優しいなまえの事だから、少なからず組織を裏切った事を気にしているのではないか、と太宰は常に気にしていた。
だから尚更、弟のように可愛がっていた芥川には会わせたくなかったのが太宰の本音だった。