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青 い 花 【文豪ストレイドッグス】

第4章 黒の時代



なまえはゆっくりと振り返り、小さく口を開く。



『………忘れ物でもしたのかしら?裏切り者の"太宰さん"』



皮肉たっぷりにそういえば、普段となんら変わらない飄々とした顔の太宰治が、扉の隙間からひょっこりと顔を出した。


「……おやおや、"太宰さん"だなんて。折角会いに来たのに、冷たいねえ。もう少し喜んでくれてもいいじゃあないか。」



言いながら太宰は微笑み、かちゃり、と扉を閉めた。



『鬱陶しいのがいなくなって、清々してたところだったのに。気分は最悪。』

「全く素直じゃないねえ。本当は寂しくて寂しくて堪らない癖に!」


揶揄う様に云いながら、太宰はなまえの元へと歩み寄る。
近づいてきた太宰の顔には、いつも右目を覆っていた包帯はなくなっていた。二週間会わなかっただけなのに、懐かしさやら嬉しさやらが、胸の奥底からこみあげてくる。そんな思いを振り払うように、なまえは口を開いた。


『……今更、何の用?』

「つれないね。もう少しお話をしないかい?」

『しない。どっかのど阿呆が蒸発したせいでその尻拭いをさせられてる可哀想な社畜に、そんな暇ないの。』

「それは大変だ。頑なに幹部になる事を断ってきたなまえちゃんも、今回ばかりは逃れられないだろうねえ、可哀想に。」


まるで他人事のように言いやがる元上司を、なまえはぎろりと睨んだ。太宰は、へらへらと笑いながら此方を見下ろしている。


『アンタが消えて一番警戒されてるのは私だってこと、わからないはずないわよね。とっとと要件済ませてお暇したほうがいいんじゃない?』

「うふふ、こんな時でも君は……私の心配をするんだね」


そういって太宰は優しく微笑みながら、なまえの頭を優しく撫でる。久しぶりの感覚に、なまえはそっと長い睫毛を伏せた。


『……だから、何の用』

「ふふ、わからないかい?」


細くて長い指が、なまえの柔らかな髪を撫でては梳かしてゆく。もう随分昔から当たり前に側にあったこの感覚なのに、今はとても懐かしい。
なまえは、伏せていた睫毛を揺らした。


『……わかるわけ……ないじゃない』


織田作がいなくなって。貴方まで突然いなくなった。

ずっと続くと思っていた景色が、突然、目の前から姿を消したのだから。
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