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青 い 花 【文豪ストレイドッグス】

第4章 黒の時代








―――"太宰治が消えた"



此の報せが港湾都市ヨコハマの闇夜を仕切る兇悪集団ポート・マフィア内を駆け巡ったのは、つい二週間前の事だった。

首領の右腕であり歴代最年少幹部の肩書きを持つ男が、突然姿を消した。
幾ら此のポート・マフィアであろうと黙っていられる事態ではないようで、悲しむ者も居れば躍起になって探そうとする者も大勢いた。

二週間が経った今でも、それは未だ変わっていないようだ。今日も騒がしい組織内の者たちを一瞥しながら一人、コツ、コツと静かな靴音を立てながら、みょうじなまえは小さく溜め息を吐く。
胸元まで伸ばした亜麻色の髪がふわりと靡けば、その真っ白な肌を掠めた。長い睫毛にびっしりと囲まれた紫水晶のような大きな瞳、すっと通った鼻筋に熟れた果実のような唇。整ったパーツがその小さな顔に見事に配置された様は、異質めいた美しさを放っている。

慌ただしい廊下を通り過ぎ、なまえは二週間ぶりに、とある人物の元個人執務室の扉を開ける。やっと静かな空間に辿り着けたことに、心の底から安堵した。見慣れた部屋のデスクの上には、パソコンと山のような書類が無残に散らばっている。

約二週間、謹慎という名の休養を首領から言い渡されていたなまえは、久しぶりに見る光景に肩を落とした。
"全くとんでもないことを仕出かしてくれた上司"の痕跡にもう一度溜め息を吐いてからなまえは、静かに書類の山に手をつけた。

其の瞬間、かちゃり、と小さく扉が開く音が耳を掠める。片付け途中の書類が、なまえの手からぱさりと落ちた。

其れが誰か、なんて。なまえにとっては愚問だった。
”この執務室”にノックもせず入って来る人間なんて、彼女は一人しか知らないからだ。


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