第19章 失われていたもの
「今まで全く自覚なし?何か人と違うなって感じたことはなかったの?」
「う、うん」
ムニルは目を丸くして驚いている。ハヨンは自身が人と違うことに気づかなかったのは、もしや自分は酷い鈍感だったのではないかと焦ってしまう。
「ハヨン。お前は本気で命の危機を感じるような体験を、この戦よりも前に体験したことはあるのかい?」
チェヨンは突然、そんな質問を投げかけてくる。ハヨンはどうだっただろうか、とヨウとの鍛錬のことや王子に助けられた10年前のことなどをざっと思い返す。
「何度も危ない体験はしたことがありますが、今回のようにすぐさま命に関わるような
、差し迫った危険にあったことはなかったです。」
ときっぱり答えた。
「四獣はね、面倒なことだけれど命の危機に直面しなければ本来の力は眠ったままなのさ。だからずっと平穏に暮らせていれば自分の力に気づくこともないまま一生を終えることもできる。ただ、やはり人と違うところもあるから、目立ちやすくて争いごとには巻き込まれやすいからそんなことは滅多にないのだけどね。」
「へえぇ、そうなのね。それにしても、チェヨンさんは本当に四獣のことに詳しいわねぇ。一体どこでこのことを知ったのかしら」
ハヨンは今の状況に、必死に食らいついている状態なのであまり相槌を打てないのだが、ムニルは感心しながら老婆に問いかけた。
「ふん、ただの年の功ってもんさ」
と当の老婆ははぐらかした。
「少し疑問があるんだが、ソリャは生まれつき見た目が違うと言っていたし、孤児院で育って命の危険に遭うこともなかった。それに、孤児院の年上の人達と争いになった時には既に人並み外れた力を持っていたんだから、彼の場合はどうなる?」
リョンヘがそう、首を捻りながら老婆に尋ねる。
「それが疑問なのさ。そもそも今まで変化なしの状態で白虎特有の尻尾や耳がある者がいたことが無いんだ。例外中の例外とも言えるね。それにハヨン」
「え、私?」
ここでまさか自分が話題になると思っていなかったので、ハヨンはぽかんとした。リョンヘとムニルの視線が、同時にハヨンに向けられる。