第19章 失われていたもの
「今まで女性四獣であった者はいなかった。最初ハヨンと会った時に、赤い瞳を見て心底驚いたよ。まさか朱雀が女性だったとはね。」
その時ハヨンは、老婆に赤い瞳をもつのは血筋からなのかどうかを尋ねられたことがあったのを思い出した。
「つまりはハヨンも例外ということか…。」
「何だか例外だらけね…」
「ほんとに…」
ハヨン、リョンヘ、ムニルは老婆ほど四獣に関して知識はないため、不思議だと驚くばかりだ。
「わしはこのことが魔物の企みと関係があるように思えてならないね。今までと異なるということは何かが起きるということ。お前たちは生まれてくる時に、それを悟っていたんだろう。」
「なら、何か私も今までの青龍と異なるところがあるのかしら」
ムニルが眉間にしわを少し寄せてそう言った。どうやら自分にもそう言ったところがないか考えているらしい。
「無いとは言えんな。」
まぁ、前の四獣と比べたりしなければわからないがね。と老婆が付け加え、ハヨンはその言葉に少し違和感を覚えた。しかし、誰かがこちらに向かってくる音がして、そのことは頭の中から消え去ってしまう。
「医術師にハヨンの意識が戻ったって聞いたから来たのに、何だよみんなで喋くってんじゃねぇか」
「ソリャ!」
顔をのぞかせた彼は、少し不機嫌だった。どうやら自分だけが置いてけぼりを食らった状態になっていたのが気に食わないらしい。ソリャがこの城にやって来てからまだ日は浅いが、彼は意外と寂しがり屋なところがあるのを、ハヨンは気づいていた。
「ごめん。私が目を覚ましたり、リョンが体調悪くなったりした流れでこうなってたから。」
ハヨンは慌てて、決して彼を仲間外れにしたわけではないことを伝える。
「今、四獣の話をしていたところだし、あんたもこの中に入りなさいな」
ずっと戸口に立っているソリャに向かって、ムニルが手招きする。ソリャはその不機嫌な顔のまま、壁にもたれた。しかし、先ほどよりは表情も和らいでいる。
戦の始まる前に、ソリャとハヨンの二人きりで話したことがあった。その日から少しずつ、彼は表情が豊かになっている気がする。しかめ面など、機嫌の悪い時は前からも顔に出ていたが、嬉しい時や寂しい時なども分かるようになって来て、ハヨンは嬉しかった。