第19章 失われていたもの
「ふーむ…。まぁ自然に考えれば、王子の記憶を奪ったイルウォンと、王子に縁の深いハヨンが戦ったことで呪いの一部を持ち帰り、それに王子が触れたことで反応して、記憶が戻ったと言うところではないか?」
チェヨンは考え込んでいるからか、真剣顔つきで言葉の一つ一つを選び取るように答えた。
「そんな簡単に術って解けるのかしら。そんなことすれば、呪いにかかった人は誰かを媒体にして術者に触れればいくらでも解けちゃうんじゃない?」
ムニルはそう問い返す。
「それはハヨンが特別だからに決まっているだろう?この間、ハヨンが朱雀だと言うので間違い無いと皆でそう話し合ったじゃないか。」
そのチェヨンの言葉で、ハヨンは思わず体を固くした。皆と話し合ったとは、この孟の城の兵士達とだろうか。それを知った彼はどう思っただろう。これから先の生活がいつも通りというわけでは無いだろうなとハヨンは少し考える。
自分が四獣だったと言うのが嫌なわけでは無い。むしろ国の象徴とも言える神の使いであったと言うのなら、光栄な話だ。けれども、実感が中途半端にしか沸かず、戸惑いの方がまだ大きい。ムニル、そして特にソリャはこう言った思いに悩まされたこともあったのだろうか、とハヨンはこの四獣という運命の重さを実感するのだった。
「あ、ハヨン。もしかしてこの話…まだ聞いてなかった?」
すっかり黙り込んでしまったハヨンの様子を見てか、ムニルが少し焦ったような表情を見せる。
「うんん、リョンから話は聴いた。けど、私はムニルみたいな思い通りに変化することも、今まで火を扱えたことも、そもそも自分が朱雀だってことも自覚がなかったから、混乱してはいるよ」
ハヨンは自身が朱雀だと言われてから考えていたことをやっと言葉にまとめることができた。