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雪解けの春《アイナナ》

第14章 Episode 13





「ねぇ、ユキー」

「なに」

「私ずっと歌ってたよ。ユキと会わなくなってからも、ずっと歌ってた」

「うん」

「...っ、私、本当は気付いて欲しかったんだと思う...歌ってたら、いつか...ユキに会えると思って...!」

「会えたでしょ」



お酒のせいか、急に泣き出した私をユキはそっと抱き締めてくれた。
ユキの心音は少し早くて、ああ、ユキも酔ってるのかななんて思いながら私は身を委ねた。



「今まで...顔を出して歌うことが怖かった。九条に二流って言われたことが悔しくて歌い続けていたけど、その言葉のせいでファンと向き合うのが怖かった...」



ユキの体温を感じながら、私は本音を漏らした。
ユキは何も言わずに、腕の力を強める。



「でも、今日のRe:valeのステージを見てね、いいなーって。ファンと向き合って、その場で感動を共有するのが、いいなーって思ったの」

「それで?」

「ユキ、私、みんなの前で歌いたい」

「──そう。初めてのライブには絶対僕を呼んでね」

「来てくれる?」

「もちろん」



顔を上げると、月に照らされたユキの綺麗な顔が真っ直ぐ私を見つめていた。
優しい目で私を見つめていた。
事務所から聞こえる賑やかな声が、今だけはとても遠くに感じる。




「ほら、そろそろ中に入ろう。本当に風邪をひいちゃう」

「ユキ、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」



事務所へ戻ると三月は既に寝てしまっているわ、大和は龍之介に捕まっているわ、未成年組はまだまだ元気にご飯を食べているわと、すごく自由な空間が広がっていた。


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