第2章 Episode1
「それよりさ、2人ともまだまだ飲み足りないよね?今日は私の奢りだから潰れる程飲もう。ね?ね?」
「目がこえーよ!」
そう言いつつも三月はジョッキに残っていたビールをグイと煽り、空にした。大和もそれに続きジョッキを空けたため、通りすがりの店員さんに生を3つ注文する。
「さくらはさ、顔出そうって思わないのか?」
「んー、なんかタイミング逃しちゃってさぁ。隠す訳でもないんだけど、このままファンの理想のままでもいいかなーって」
「何となくわかるかもなぁ。理想を壊したらどうしよう、みたいな感じだろ?」
三月からの質問に答えると大和が同意してくれる。
そう、隠している訳ではないのだ。
しかし昼間街で聞いたファンの声が、歌手 Sakuraに対する世間の声だ。
ハードルが上がってしまっているから、ファンの理想のSakuraのままの方がいいのかも知れない。
声しか知らない私のファンでいてくれるのだから、有難いことだ。
「でもすげぇよな。CDだけで...声だけでファンの心を掴んでるんだ。オレ達とはまた別の方法で夢を見せてる」
「私は君らみたいに輝けないけど、歌でファンと共感したり、支えてあげたり、少しでも寄り添えるような歌手になりたい」
「あー、わかる。酔った勢いで言うけどさ!オレもずっと憧れだったアイドルになれて。言っちゃえば夢が叶ったじゃん?だからファンのこと頑張れって励ませるような、そんな存在になりてー!」
お酒は偉大だ。シラフなら言うのも恥ずかしい台詞だってサラッと言えてしまう。
私と三月の本音を聞いて大和も頷いている。
楽しいなぁ。
あ、ビール追加しよう。