第11章 Episode 10
ユキがお兄ちゃんから手紙を受け取り、読み始める。結構な長さだったが、そこには学校の部活を頑張っていたが大事な試合で怪我をしてしまい、負けてしまったこと。
『未完成な僕ら』を聴いて、考えないようにしていた悲しさや悔しさが込み上げてきて泣いてしまったこと。
でも、これから前に進めそうです。この曲を作ってくれてありがとうございます。
そう書いてあった。
「俺たちの歌が誰かにきれいに届いて、その人の人生のためになるなんて...。奇跡みたいだ。嬉しいよな...」
「ユキ...?」
「千、もしかして、泣いてるのか...?」
僅かに震えているユキの肩。
ユキはきっと嬉しかったんだと思う。大切に作った歌が大切に受け止めてもらうことができて。
お兄ちゃんも私も感激した。
自分たちの歌を喜んでくれる人がいたとき、これ以上欲しいものはないと思った。
ずっと欲しかったものは、お金でも評価でもない。
自分たちが作った曲を、誰かに真摯に受け止めてわかって欲しかった。純粋に喜んで欲しかった。
その夜は楽しかった。学生時代に戻ったみたいにふざけ合った。
「ほら、千!さくら!こっち向いてピースして!」
「あはは、ユキが泣いてるの初めて見た!」
「泣いてないから!」
「おい、こっち向けって、写真撮るぞ!」
その時撮った写メは現像して、今でも手帳に挟んでいる。
嫌そうな態度とは裏腹に、優しい表情をしたユキを真ん中に、私とお兄ちゃんが満面の笑みで両脇にいる写真だ。
「これから、ちゃんとやるよ」
「やっとやる気になってくれた?」
「バレてたの?」
「なんで踊ってんだろうって顔に書いてあった」
この手紙をきっかけに、ユキはやる気を出してくれた。しかし、お兄ちゃんとは少しずつすれ違いが起きていた。
お兄ちゃんは作曲に対する意欲が満たされて、達成感を得て、段々裏方作業の方が楽しいと思うようになってきた。
そしてもうひとつは、ユキを音楽で食べれるようにしてあげることだった。
お兄ちゃんや私とは違い、どう考えても一般社会では生きづらいユキを、なんとかデビューさせたい。お兄ちゃんはそう考えていた。