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雪解けの春《アイナナ》

第11章 Episode 10





「あの、よかったんですか?友達置いてきちゃいましたけど」

「友達じゃない」

「...名前は?君のだけど」

「折笠千斗。みんなユキって呼ぶよ」



その時、初めてユキは少し笑って見せた。
ユキは人付き合いが下手で、いい加減でだらしなかったが、曲作りに関しては人一倍真摯で努力家だった。
だからこそ、私たち3人はケンカもたくさんした。



「ここのフレーズ、違う方がよくないか?」

「こっちもこうした方がもっと良くなると思うよ」

「変えない」



頑固。自分がこうだと言ったらその意見を簡単には曲げようとしない。
かと思えば、柔軟でもあった。



「変えてみた」

「わ、絶対こっちの方がいいよ!ね、お兄ちゃん!」

「うん、さすがユキだ!」



きっとユキは悩んでいたんだと思う。
Re:valeが有名になっていくにつれて、ユキの容姿と人格がユキを憔悴させていった。
どんなにいい曲を作っても、ユキの容姿や性格に腹を立てている人にはボロクソに言われ、かと思ったら私たちが微妙だと思った曲でも、ファンの女の子たちには称賛された。



「...痛い」

「どうしたの、さくら」

「ユキ...!?なんでもない!」

「怪我してる」

「大丈夫だよ、ちょっと切っただけだから」



Re:valeが人気になるにつれて、私への嫌がらせも増えていた。
そんなに目立つような嫌がらせはなかったが、小さな嫌がらせがライブの度に続いていた。
ユキの近くにいることが許せないのだろう。
実際そういった内容の手紙を何度も読んだ。
それでも、私はRe:valeを辞めなかった。辞めたくなかった。



「ユキ、大丈夫?」

「...僕は僕が愛されなくたっていい。僕の歌だけ、神様にも虫にも愛して欲しいんだ」

「うん、お兄ちゃんも私もわかってる。ユキが誰より曲に対して向かい合ってるのか、わかってるよ」


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