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雪解けの春《アイナナ》

第11章 Episode 10





明日はいよいよこけら落とし初日。
TRIGGERの演劇だ。
天からもらったチケットを大切に鞄にしまい、ベッドに横になる。
何故か今日は眠気が来ない。
私は目を閉じながら、昔のことを思い出していた。
ユキとお兄ちゃんがRe:valeとして活動していた時のこと。
百くんと初めて会った時のこと。






あれは、夏休み前だったかな。
お兄ちゃんの友達の軽音楽部の人達、お兄ちゃんと私、そしてユキの数人で集まった。
お兄ちゃんの作った曲を聴くためだった。



「彼は?」

「ああ、軽音部じゃないけど口説いてきてもらったんだ。イケメンだろ?すんごいモテるんだ」



綺麗な顔してるなあ。
退屈そうに窓の外を眺めて、まるでこっちに興味がない。
私の視線に気付いたのか、チラリと目をこちらに向けるがすぐに窓の外に視線を戻してしまった。
感じ悪いな。



「お兄ちゃん、この人化石かなにか?」

「俺も同じこと思ってた」



コソッと耳打ちすると、お兄ちゃんからも同様の言葉が返ってきた。
そして、お兄ちゃんと私が作った曲を聴くとなった時、化石はようやく動いた。
面倒臭そうにイヤホンをつけたが、曲を聴いた瞬間顔を上げて初めてお兄ちゃんと私の顔をしっかりと見た。



「名前は?」

「曲の...?まだ付けてない」

「違う。おまえ達の」



お兄ちゃんより年下でしょうってツッコミたい言葉をぐっと堪える。



「大神万理だ。さっきも名乗ったけど」

「妹の大神さくら、です」

「他の曲は?」



名乗れよ!!!多分、この時の私はなかなかに顔が死んでいたと思う。
それ程までにユキの第一印象は最悪だった。



「持ってきてない。家にはあるけど」

「じゃあ、家に行こう」

「は?」

「先に帰るね」



そうしてユキは軽音部の人達を置き去りにして店を出た。
私たちも代金を置いて、ユキの後を追った。


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