第1章 真島という男
夜11時。
神室町に怪しいネオンが光り輝き、活気に湧く時間だ。
早目に仕事を終えた雅美は独り町を歩いていた。
いつも決まった場所にしか行かない雅美にとって、
神室町の独特の華やかさや賑わいなど一度も感じた事がない。
こんな場所にこんな店があったのかとか、あんな場所にあんな物が売っていたなど雅美の目には様々な情景が次々に飛び込んでくる。
「カノジョ~、これから一緒にご飯いかなぁい~?」
ミレニアムタワー前の通りを歩いていると、同じ世代の若者に声をかけられる。
それは日常茶飯事な光景だが、雅美にとっては1度も経験したことない事だった。
「あ、私人を探してるんで……」
「人ぉ?だったら俺も一緒に探してあげ」
「――けっ、結構です!」
雅美は強引に会話を止めて、そのままその場を走り去った。
ハァハァと息を切らし整えながら、劇場前通りを歩く。
ここにもたくさんの人々が行き交っているが真島の姿は確認できない。
この時間に通りを歩けば何処かしらで真島に出会えるんじゃないかと思っていたが、
現実はそうもいかないようだ。
もしかして人通りが少ない場所にいるのだろうかと考えた雅美は、場所を変えて移動することにした。
明日は仕事休みだし、叔父夫婦も幸いな事に出かけていない。
のんびり家で過ごせるなら、多少歩き回っても疲れなどすぐに癒えるだろう。