第1章 真島という男
雅美と会った3日前から体調がおかしかった。
あんな寒い中でずっと待ってたせいか、酒を飲んでも最後まで調子が上がらなかったのだ。
深夜1時頃、雅美がそろそろ帰ると言って一緒に店を出た時、一瞬目眩がして倒れそうになった。
外の冷たい風と店内の甘ったるい空気に頭の中がおかしくなったのだろう。
もちろん雅美にはそんな弱った姿など見せるなんて絶対に出来ない。
組の人間に車を出させて、雅美の自宅まで送り届けそのまま自宅に戻った途端、
漸く張り詰めた気が緩んでそのままベッドに倒れ込んでしまったのだ。
『まぁ、あまり無理しないで…と言っても無理するだろうけど』
「なんや。桐生ちゃん、俺の事ようわかっとるやないか。俺嬉しいで~」
『兄さんが寝てる間、神室町は当分静かになるな』
「んな事言って、ほんまは淋しいんとちゃうか?素直やないなぁ、桐生ちゃんは」
真島の話に全く耳を貸さない口ぶりの桐生は、それじゃと言って電話を切った。
「つれないな~相変わらず」
苦笑いしたまま電話を切った真島。
そしてそのまま後ろへ大の字に倒れ込むと、睡魔が襲ってきて再び眠りについた。
――来ないな、真島さん。
雅美は心の中でそう呟いて幾度となく窓ガラスから外を眺める。
だがその目に真島が映る事は無い。
皆勤賞やといつも自ら自慢げに言っていたのに、ここ3日間無断欠席が続いていた。
いつも来るはずの真島が店に来ないだけで、何だか心にぽっかり穴が空いたよう。
いつも見ていたあの姿が目に映らないだけで、不安になってしまう。
真島に何かあった?
そればかり頭の中で考えてしまう。
真島の職業が職業なだけに、身の安全の保証など無い。
ただでさえこの町では常日頃喧嘩や抗争があるだけに、
それに巻き込まれてる可能性だって捨てきれないのだ。
最後に会った3日前は普通だった。
若干顔が赤いかなと感じたが、それはアルコールのせいかもしれない。
黒塗りの高級車で自宅まで送ってもらった時も、車内からほな~と笑いながら雅美に手を振っていたのに。
「2番テーブル~」
厨房から出来立ての料理が運ばれてきた。
雅美は料理をトレーに乗せると、不安感を振り切って仕事に精を出した。