第1章 真島という男
―――ゴホッ、ゴホッ!
高級マンションの最上階。
寝室のベランダからは神室町が一望出来て、夜には宝石を散りばめたような夜景が見る事ができる。
そんな部屋に住むのは……。
「うぅ~、めっさ体調悪いわ~」
キングサイズのベッドに横たわり、布団に包まる真島。
眼帯や革手袋はベッド横のサイドテーブルに無造作に置かれていて、
その回りには飲んだ薬の残骸が散らばっていた。
「俺が風邪ひくなんて、ほんましゃれにならん」
鼻水をズズズッと啜りはぁ~と深くため息をついて、鼻の上まで布団を被った。
その時床に脱ぎ捨てたままの蛇柄の自分のジャケットから、携帯の着信音が流れてきた。
真島は気にする事なく目を閉じて眠りにつこうとするが、
着信は鳴り止む事を知らない。
「……ったく、誰やねん!俺の睡眠を邪魔するアホな奴は!」
着信から2分。
本来なら留守電に切り替わるはずなのだが、真島は機械に疎く留守電を設定していないため着信に出ない限り、ひたすら鳴り続けてしまうのだ。
「しつこいんじゃボケ!早よ電話切らんかい!」
下半身に革のズボンを履いて、上半身裸のままベッドから出た真島はジャケットから携帯を強引に取り出し、
着信に出るやいなや、そのまま相手に刃剥き出しで噛み付いた。
『兄さん、居留守また使ったな?』
「桐生ちゃんかい」
着信の相手は桐生だった。
電話の向こうからは町の雑踏が聞こえてくる。
『電話に出たくないなら留守電にしといてくれよ』
「そんなもん、俺は知らんわ」
桐生との会話にほんの少しだけ気がラクになる真島。
話しながらベッドの隅に腰を降ろす。
『組の人間から聞いた。兄さん2、3日ずっと風邪引いてるみたいだな。体の具合はどうだ』
「せやねん。体が重たくてしゃーないわ。頭もぼーっとしとるし。桐生ちゃん看病しにきて~」
『冗談は口だけにしてくれ』
「桐生ちゃんのいけずぅ」
『……』
まだ笑って話せる余裕がある事に気づいた真島。
桐生も呆れ果ててるに違いない。
『……風邪なんて珍しい。また朝方まで遊び歩いてたんだろ?』
桐生の言葉に、んなアホなとフッと笑って返事を返した。