第12章 卵の君
「貴様らぁぁぁ!社が無人とは如何云う事だ!!賢治迄おらんではないか!客が来たら如何する心算だ、大体書類も…って………は?」
大きく息を吸い込んだ後此処が喫茶店だと云う事も忘れて怒鳴る国木田さんを暫く見ていると目が合い、動きがハタと止まる。
黙ったままも失礼なのでおずおずとしながらも挨拶をする。
『こっ、こんにちは。』
「……嗚呼、こんにちは。………いや、そうじゃなくてだな!何故此処に!?」
『お散歩していたら偶然皆さんと会いまして、少しお話でもと誘って頂いたんです。』
「うちのものがすまなかった。」
『いえ、とても楽しかったですよ。』
「ふぅん、こりゃあ太宰の云う通りだね。」
「でしょう?借りて来た猫みたいにしおらしくなっちゃって。」
「愛理さんが居れば国木田さんのストレスも軽減されそうですね。」
「敦君、其れだよ!!」
横でひそひそと話していた太宰さん達は何やら目を爛々として私の手を取り、如何したのか問おうとすれば次に云われた言葉に耳を疑った。
「愛理さん、うちで働かないかい!?」
『……はい?』
「だーかーら、探偵社の事務員として働いてはくれないかい?アルバイトではなくて社員としてね!」
『え、いや、あの私なんかが務まるとは到底思えません。』
「何を阿保な事を云っているんだ、太宰。彼女を困らせるんじゃない。」
「でも名案ですわ!丁度人手が欲しいと思ってたんですの!」
「ほらほらー。国木田君も素直になりなよ。彼女が事務員になってくれたら毎日会えるんだよ?」
「いっ、いや、其れはだな……」
太宰さんに耳打ちされて顔を赤くする国木田さんはうーん、と暫く唸った後決意を固めた様だった。
「私からもお願いします。貴方さえ良ければ探偵社で働いてはくれないでしょうか?」
『是非、と云いたいところなんですが後一年待って頂けませんか?』