第12章 卵の君
外に出て其れらしき人物を探したけど見当たらない。
金髪を後ろで一括りした眼鏡を掛けた男性。
矢張り居ない。
少しだけ歩いてみて居なかったら諦めよう。
と、思った矢先。
何やら怒鳴り声が聞こえてくる。
恐らく近くの河川敷の方向だ。
忘れ物の事をすっかり忘れていた私は興味本位で声のする方向へ向かう。
「いきなり川に飛び込む奴があるか!!」
「だって〜今日の川の流れ丁度良かったんだもの。ほらっ。」
「ほらっ。じゃない!ったく貴様のせいで大幅に予定がずれるところだ。」
「本当に予定が好きだね、国木田君は。」
「当たり前だ。俺の全ての予定は此の手帖に……」
「如何したの?何時もなら自慢気に此の手帖に全て書いてある!!って云うじゃない。」
「手帖が……無い。」
「えぇーっ!?あの国木田が!?真逆手帖を失くすなんて。あ、もしかして此れも予定通りだった?」
「手帖を失くす予定をわざわざ記す訳無いだろう!」
「もしかしたら川かなぁ?一寸探してくるよ。」
「待て。そう云って貴様はまた入水しに行く心算だな?」
『ふふふふっ。……あ、御免なさい。黙ってようと思ってたんですけど、ふふっ、面白くてつい。』
河川敷に辿り着いた私は当初の目的でも或った其の男性を見つけると会話に入り込むのも気が引けた為少し離れたところに居た。
そして今一風変わったやり取りに堪え切れず笑い声を上げてしまったところだ。
「ッ!?何と可憐なお嬢さん!如何か私と心中しては頂けませんか?ー-あ゛いだッ!」
「そうやって軟派をするなと何度云えばわかるんだ!」
「私は心中のお誘いをしてるんだよ。」
「尚悪い!!……騒がしくてすまんな。」
『あ、いえ。私は面白いものが観れたので。あっ!そうだ!此れ忘れてましたよ。』
「あの時か!!すまないな、恩に着る。」
『いいえ、大事な手帖ですものね。ふふっ。』
「嗚呼。本当に助かった。」