第12章 卵の君
『有難う御座いましたー。』
「宮野さん、休憩行って良いわよ。」
『はぁーい。休憩頂きます。』
ふぅ…。
今日はセール品が多くなる火曜日。
うちのスーパーの目玉でもある、卵と飲料系が安くなる日でもある。
流石にお客さん多くて疲れたなぁ。
持参したお弁当と水筒に入った紅茶を飲み終え一息つくと読みかけの本を読む。
…ってもうこんな時間!!
そろそろ仕事に戻らなきゃ。
高校に通いながらアルバイトをしている私は特に何の目的があって働いている訳では無い。
適度に友達付き合いもしているし別段暇な事も無いのだが強いて云うなら社会勉強、だろうか。
本当に何となくアルバイトをしているだけだ。
『いらっしゃいませー。』
籠の中に入った商品を淡々とレジに通していく。
……此の人先刻から何度も時計を見てる。
そんなに遅いかな?
自慢じゃ無いけど結構早い方だと思うんだけどなぁ。
『遅くてすみません、お急ぎですよね。』
「……は?あ、いや、すまない。時計を見るのは癖の様なものだから気にしないでくれ。むしろ早くて感心している。」
『それなら良かったです。』
えっと、卵が3パック、と……。
こんなに大量に卵を買って見た目不器用そうだけど料理するんだろうか?
そう云えば毎週来ている様な気がする。
自炊するなら納得だ。
仕事もしてるだろうし購い溜めといったところだろう。
『お会計が2316円で御座います。』
「嗚呼。」
『3000円でお預かりします………684円の御返しですね。』
「有難う。」
其れだけを云うと卵と飲み物とお菓子が入った籠を持って袋詰めをする台に向かって行った。
何だか不思議な人だったなぁ。
キリッとして真面目そうなんだけど掴み所が無いと云うか…。
その人が立っていた台を見るともう既に去ってしまった後の様で姿は消えていた。
が、代わりに手帖らしきものが置いてあった。
『えっ!?忘れ物!?すみませーん!忘れ物が或るんですけど…』
「あらっ、本当。困るわねー。」
『私分かるんでその辺探して来ましょうか?』
「じゃあお願い!その間レジは私が入るから気にしないでね。」
『はい。行って来ます。』