第6章 四月莫迦を君と 其の壱
すると突然太宰の脚がはたと止まる。
『如何かしました?』
「何か凄ーく嫌な予感がするんだけども。」
「手前ェ何でこんな所にいやがる!!」
「うわっ、最悪。其れは此方らの台詞だよ、中也。」
嫌いなものにお互いの名を挙げる程嫌い合っているとは思えない低次元の喧嘩を街中で繰り広げる。
「この包帯の付属品が!!」
「単純男。」
「兵六玉!」
「双黒(少)」
「(少)ッて云うな!!」
中也はふと愛理を見ると太宰と手を繋いでいる事に気付く。
所謂恋人繋ぎで。
「で、手前ェら何してンだよ。」
「何ってデエトだよ。見て分からないかい?」
「はァ!?愛理に迄手ェだしたのかよ!」
「真逆。愛理が本命さ。」
『私達付き合ってるの。』
相変わらず飄々とした顔からは何も読み取れはしないが隣に居る彼女の照れた顔を見て事実なのだと悟る。
「……あァ、そうかよ。そりゃあ、めでてーこった。」
『中也は?好きな人とか居ないの?』
「ンなもん居るかよ。」
手前が好きだ、等と嬉々と太宰と恋人同士になったと報告して来た彼女に云える筈も無く帽子を深く被り直した。
「ところで中也、今日が何日か知っているかい?」
「急に何だよ。四月一日だろ?其れが如何かしたか?」
『あちゃー。真逆の知らない展開。』
「はァ?」
キョトンとする中也を余所に愛理は此れは如何した事かと眉をひそめる。
「中也。最早帽子に意識を取られてしまっている君なら知らなくても無理はないが今日は四月莫迦と云う日なのだよ。」
「何だとこの野郎!!…で、四月莫迦って何なんだよ。」
「教えて欲しいのならば身長をあと10㎝伸ばしておいで。」
「チッ。身長が関係あンのかよ。」
『いやいや、無いから。簡単に云うとね、四月一日の午前中だけは嘘をついていいという風習が外国に或るんだよ!』
「へェー、そンなのあんのか。……って事は。」
「私と愛理が恋人と云うのは嘘だよ。まぁ私としては事実にしたいんだけど。」
そう云いながら愛理の腰に手を回す太宰はやんわりと拒否される。
其れを見て漸く今迄の流れを理解する。