第6章 四月莫迦を君と 其の壱
『其れにしても太宰さんが迫って来るから驚きました。』
「ふふっ、君の悪戯に乗ってあげたんだからあれくらい良いだろう?」
「えっ、真逆とは思いますがあれアドリブなんですか?」
『「そうだよー。」』
「「はぁっ!?」」
「愛理が何か企んでいると思ってね、其れに咄嗟に乗っただけさ。」
「いや、其れで咄嗟に乗れるのが凄いと云うか何と云うか…」
たった今、本日二本目の万年筆が折れた所で愛理と太宰はコソコソと何かをしていた。
「お前ら、今度は何を企んでいる。」
『「いやー、なーんにも。」』
「一々揃えるな!!」
「まぁ兎も角愛理さんが辞めるのが嘘で良かったですよ。」
『敦君……。ありがとう。』
軽い気持ちで騙した筈なのに思わずジーンと来てしまった愛理は心が浄化される。
が、本番は此れからだと云わんばかりに又もや気合いを入れ直す。
「用が済んだならさっさと書類を出せ!特に太宰!!期日過ぎているのがあるだろうが。」
「あのう、国木田さん。もう居ません。」
「何!?」
「ちなみに愛理さんも居ません。」
「……彼奴ら!!!」
一方で、愛理と太宰は手を繋ぎながら歩いていた。
「君が仕事を放り出すなんて珍しいじゃないか。」
『太宰さんと違って今日の分はきちんと終わらせてありますよ。』
「なーんだ。また私だけ怒られるの。」
『怒られるの楽しみでしょう?』
「人を変な性癖の持ち主みたいに云うのは止めてくれ給え。」
二人は途切れる事の無い会話をしながら目的が或る様にもただ目的も無く歩いている様にも見える足取りで只々歩みを進めた。