第6章 四月莫迦を君と 其の壱
-四月一日某日。
『太宰さん、私探偵社を辞めてマフィアに戻ります。矢っ張り此処は眩し過ぎるみたいです。』
そう告げると彼は顎に手を当てなるほどね、と呟く。
周りでは敦君や国木田さんが声を上げたり万年筆を折ったりする音が聞こえる。
「否、無理やり連れて来てしまったのは私だ。すまなかったね。此れからも逢えるかな?」
『……私達敵同士になるんですよ?』
「そんな事構わないさ。君と居る為ならどんな手でも尽くすよ。」
『太宰さん……「一寸待ったぁ!!!」』
二人で抱き合いながら今にもキスをしそうな距離まで詰めると敦君が割って入る。
「愛理さん探偵社辞めるって本当ですか!?」
『……うん。ごめんね。』
「辞めないで下さいよ!!此処には、探偵社には愛理さんが必要なんです!!」
「そうだぞ!俺の手帖にはお前が探偵社を辞めてマフィアに戻るなど書いて無い!」
『もう決めた事なの。皆さん長い間お世話になりました。凄く居心地の良い場所でした。素敵な方々に出逢えて本当に良かったです。』
涙ぐむ愛理は震える口で精一杯の感謝を述べるとお辞儀をして何処かへ行ってしまった。
其れを見ていた敦と国木田は何時も通りに業務を行う他の社員を見て腹立たしささえ感じた。
「愛理さん……。」
「少々太宰と似ているが仕事は真面目にする良い奴だったな。またいつか逢える。だから泣くな、敦。」
「うん、すぐ逢えるよ。ね、愛理?」
『何ー?』
突然扉が開いたかと思えばまるで何事も無かったかの様に振る舞う愛理を見て矢っ張りか、と与謝野と谷崎兄妹は苦笑いを浮かべた。
「へっ!?愛理さん如何して此処に!?」
「敦君、国木田君。今日が何の日か知っているかい?」
「今日は四月一日。……真逆!?四月莫迦か!?」
『当ったりー♩今や聖ヴァレンタインや降誕祭を取り入れてるんだから四月莫迦も取り入れないとね!』
「貴様らぁーーー!!!莫迦な事してないでさっさと仕事をしろ!!」