第4章 オフィーリア
『じゃあ私と結婚したら毎朝ブラックコーヒーを飲んで頂けますか?』
「……苦いのは嫌だ。」
『あら、それは仕方ありませんね。違う殿方を探さなきゃ。』
「本当愛理ちゃんは上手く遇らってくれるね。私も何度心中を断られた事か…。」
いや、心中を断らない人なんて居ないでしょ。
それにしても愛理さんは本当に遇らうのが上手い。
購い出しや依頼の時に一緒に歩いていると、よく男の人から声を掛けられその度に断ってはいるのだが不満そうに去って行く人を見た事が無い。
あの太宰さんでさえも云い包められるぐらいだから矢張り口が上手いのだろう。
「そうか!では私と結婚してくれ給え!!」
は?
「いやいや、太宰さん迄何を云ってるんですか。」
「私は今まで幾度となく心中を断られてきた。」
「えぇ。毎日見ていますけど。」
「だから自殺が駄目なら共に生きようではないか!!」
「とりあえず太宰さんの頭がおめでたい事だけが分かりました。」
「酷いではないか、敦君。……で、愛理ちゃん如何かな?」
『じゃあ私と結婚したら一切他の女性に声を掛けないと約束して貰えますか?こう見えて私、嫉妬深いんですよ?』
「……美しい人に心中の御誘いを出来ないなんて嫌だ。」
『あらあら、太宰さんもですか。困りましたねぇ。』
言葉とは裏腹に彼女は口に手を当てクスクスと笑っている。
此れで乱歩さんも太宰さんも撃沈。
一体彼女と付き合える男性は居るのだろうか…。
「なンだい。太宰も駄目なのかい。てっきり妾は其処で落ち着くもんだと思ってたよ。」
「確かに…。愛理さんはきっ、気になる人とか、居ないんですか?」
よしっ、思いきって聞けたぞ!!
探偵社の七不思議でもある愛理さんの好きな人とは!
『えっ、えっと……。』
愛理さんはそう云うなり顔を赤くして俯いてしまった。
其れを見た乱歩さんと太宰さんは「可愛い!!」と大はしゃぎ。
国木田さんも心なしか顔が綻んでいるように見える。