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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第3章 夢




「君は其れ、本気で云っているのかい?」


しまった、と思った時にはもう遅かった。
隣に座る彼の眼には怒りが孕んでいた。
彼は怯えている私の頰に手を当てると私の眼を見据えて語りかける。


「君がそうしたいならそうしてくれても構わない。ただ私はまた君を手に入れるよ。共に在ると云わせる。どんな卑怯な手を使ったとしてもね。」


中也は、こりゃ太宰の野郎本気だな。まどろっこしいことしてねェで云うこと云えっつーんだよ。と思うと更に嗾ける。


「だから其れを止めろっつってんだろ。此奴にだって意思はあンだよ。無理やり側に居させるもンじゃねェ。ほら、この際手前も思う存分云いたいこと云ってやれ。」


『私は……私は太宰さんのことが好きです。あの約束以上を求めると太宰さんが去ってしまう様な気がしてずっと隠していました。でも最近辛いんです。優しくされると、側に居ると、如何しても其れ以上を求めてしまうんです。だからもう解放して下さい。お願いしまっ………!?』


最後の言葉を言い終わらない内に太宰さんが私を抱き締めるとその態勢のまま優しく語りかける。


「馬鹿だねぇ、君は。私が好きでもない人間を側に置いておくと思うかい?こんなに甘やかすと思うかい?それにこう見えて私は嫉妬深いからね。帽子置き場みたいな変な虫がつかないようにずっと側に居たのもその為さ。私は愛らしくていじらしい愛理が好きで好きで堪らないんだ。」


突然の太宰の行動の告白に固まってしまっている愛理を他所に、さり気なく悪口を言われた中也は彼女を抱き締めている為此方を向いている太宰の頭を叩こうとしたが軽々と避けられてしまった。
行き場のない悔しさを舌打ちに変えると少し苛立ちが収まった気がした。


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