第3章 夢
-約束の火曜日、当日。
ピンポーン、と家のインターホンが鳴り扉を開けるとワインレッドのシャツに黒のパンツ、白の革靴を合わせた中也が立っていた。
勿論愛用の帽子も一緒に。
「よォ、一寸早かったか?」
『ううん、丁度だよ!』
「そうか。じゃあ行くとするか。」
前回同様に車の助手席に案内され中也がよく行くと云うブティックに向けて出発する。
お勧めの店を何軒か見て回れば色々と服を見繕ってくれ更には俺が勧めたンだ、と云って支払いまでして貰った。
そしてあっという間に時間は過ぎ日が暮れたところで今はBarのカウンターに隣同士で座ってお酒を嗜んでいる。
『中也、今日は本当に有難う。洋服まで買ってもらっちゃって…』
「俺が買いたかったから買っただけだ。もし悪ィと思ってンなら次会う時着て来てくれ。」
『えっ?』
「次も会えるだろ?」
「無いよ。」
勿論だ。と頷こうとしたその時だった。
聞き慣れた声がそれを遮る。
其の声の主はさも当然の如く私の隣に腰を掛けるとマスターにウイスキーを頼んだ。
「如何して手前ェが居るんだよ、太宰。」
「如何してって私のものを返して貰いに来たんだよ。」
「此奴は物じゃねェしそもそも手前ェのでもねェ。」
「彼女は私のものだよ。ねぇ?」
急に話を振られ吃驚した私は言葉に詰まってしまいえぇっと、と狼狽えることしか出来なかった。
「だって約束したもの。私と共に在るって。」
「共に在るってだけだろ。俺は今愛理と話をしてンだ。分かったらちょっかい出してねェでとっとと帰れこのタコ!」
「後から出てきてちょっかいかけているのは君だろう?」
「好きでもねェくせに付きまとうな。手前はそうやって愛理を一生雁字搦めにして自由を奪うつもりか?」
段々とヒートアップしてきた喧嘩を止めるべくきっかけの言葉を迷っていると思いがけない一言に心臓を掴まれたような錯覚に陥る。
それと同時に今まで歯止めをかけていた言葉がスラスラと出てきた。
『中也の云う通りです。好きでもない女性に気を持たせてはいけませんよ。私のことは良いですから。優しくなんてしないで下さい。放って置いて下さい。………約束なんて忘れても構わないですから。』
そう云い終えると目の前が滲むのが分かった。