第19章 海月
中也の言葉にハッとする。
私は何も話していないし中也が話す筈も無い。
そして治はあの店に居なかった。
『………とすれば盗聴器?』
太「違う。付けても君取っちゃうでしょ。」
中「いやいや、付けるのかよ。」
太「愛しい恋人が何処で誰と何をしているのか知りたいのは当たり前だろう?」
中「だからってなァ……」
やれやれと溜息を吐きたくなるのはこっちだ。
毎回毎回見つけて外すの大変なんだから。
『じゃあ如何して知ってるの?』
太「ふふふっ、知りたいかい?」
中「佳いから勿体ぶらずに教えろ、陰湿野郎。」
太「じゃあ後で私に着いて来給え。」
疑問しか湧かない治の言動に完全に振り回されていると理解しながらもそのままで居ることが吉だと知っている。
屹度これからも其れは変わることは無い。
矢張り中也に作って貰えば良かったかも、と後悔しながら味のしないご飯を食べ終えた。
『ねぇ………この道凄く見覚え或るんだけど。』
中「嗚呼、奇遇だな。俺もだ。」
容赦無く照り付ける日差しを全く気にも止めず軽快に歩く治。
前を見れば包帯男。横を見れば黒づくめ。
なんて暑苦しい二人と歩いてるんだ、私は。
太「……愛理。そんなに熱い眼差しを向けられると照れるのだけれど。」
『うん、私は暑いけど熱くはない。』
中「太宰。包帯外せ。暑苦しいったらありゃしねェ。」
太「君も其のヘンテコな帽子と外套脱いだら?幾らかマシになるよ。」
中「此のセンスが分からねェなンて可哀想な野郎だなァ。」
太「そんな物分かるぐらいだったら死んだ方がマシだよ。」
中「今すぐ殺してやるよ。」
太「やってごらんよ。出来るものならね。」
灼熱の中、バチバチと飛び散る火花。
熱気を増やして如何する。
暑さの我慢大会でもしてるの?この二人。
此れ以上私の体内の水分を減らさない為にも止めて欲しい一心で治と中也と腕を組む。
『はいっ、早く歩きましょうねぇ。』
太「誘ってるの?」
『真逆。』
中「……当たってンぞ。」
太「一寸!私の愛理に触らないで。」
中「違ェよ!此奴が当ててるンだよ!』
『馬鹿か!わざと当ててたら痴女だわ!』