第19章 海月
『治?』
中「ッ!!?手前ェ何時から居た!!」
太「君が私の愛理に抱き着く所。」
『如何やって入ったの?』
太「鍵なんて私の前では意味を持たないよ。————それよりもいい加減離れてくれない?」
太宰が現れても尚抱き合ったままで居た二人は今其れに気付いたのか、慌てて離れる。
そんな様子でさえも彼を苛々させる。
太「云いたいことは山程或るのだけれど、愛理は中也が好きなのかい?」
『違うよ。』
太「じゃあ何故君が居るのは私の側では無いの。」
まるで駄々っ子のような台詞だが、表情は冷たく眼に光は宿っていない。
こうなってしまっては何をしても無駄だ。
それならば真っ向から向き合おう。
『何云ってるの?先に離れて行ったのは治でしょ?』
太「其れは本当にすまないと思っているよ。けれど今は私と恋仲だ、違うかい?」
『………違わない。』
太「では何故。」
ギラリと眼を光らせ逃さないよう強く問い詰める。
すっかり縮こまってしまった彼女を見ては居られないと中原は助け舟を出した。
中「俺等は相棒なンだから一緒に居る時間が増えるのも当たり前だ。」
太「そんなに必要無いでしょ。」
中「仕事終わった後そのまま飲み行ったりとかあンだろ。其れに仕事の話もしやすい。」
太「勤務時間外まで仕事しなくちゃいけないなんてさぞかし多忙なんだろうねぇ。」
無能なのか、とでも揶揄する太宰に今度は愛理が反応を示した。
『………太宰、私云ったよね?先ずは言葉にしなきゃ分からないって。回りくどいことしないで伝えたいことが或るなら云えばいい。』
名字で呼んだのはわざと。
彼は愛理から太宰と呼ばれるのを酷く気にしているからだ。
自覚しているかは知らないが、今もムッとした顔をしている。
太「だから今云いに来たんだけど。」
『太宰が云いに来たのは私達の仕事が大変だと云うこと?其れとも無能だと云うこと?』
太「何方でも無いに決まってるでしょ。」