第19章 海月
中「で?今日は如何するンだ?」
『勿論泊まって行く!明日休みだし。着替え或るよね?』
中「あぁー………、未だ洗ってねェから俺の着てろ。」
『そうだね。一寸大きいくらいだし余裕で着られる。』
寝室のクローゼットを漁り適当なシャツを選ぶ。
彼女がブラウスの釦を外し始めたのを合図に中原は後ろを向く。
中「チワワの服なんか着れねェだろ?何なら裸でも佳いンだぜ?」
『大人しく鳴いてろって意味?』
中「手前結構根に持ってンのな。」
『当たり前だよ!あんな下品な表現も嫌いだけど女を軽視した発言が一番嫌い。』
眉間に皺を寄せギリッと奥歯を噛み締める。
其れが物語るのはポートマフィアに或る女性の立場は常に危ういと云う事。
だからこそ彼女はもっと実力をつけたいと幹部にまで上り詰めたのだ。
中「安心しろ。手前は俺が絶対守ってやる。」
急に後ろから抱きすくめられ思わずビクッとする。
『……いつから見てたの。』
中「シャツ羽織った所から。」
『見るなよ!!』
中「見るだろ!!」
会話を続けながら釦を締め終えた愛理は身体を反転させ中原と向き合う。
『中也。……ありがとう。』
小声でそう云うと照れくさいのか、彼の首筋にぐりぐりと顔を埋める。
彼が先程よりもキツく抱き締めるとふふっと笑う可愛らしい声が耳に入る。
中「なンだよ。」
『ううん。心臓五月蝿いなぁって。』
中「仕方ねェだろ。おちょくってンのか、手前は。」
『そうだって云ったら如何する?』
やけに挑発的な愛理の態度の前に理性なんてちっぽけな存在に思える。
中「速攻で押し倒してやる。」
『ベッドの側でその言葉は笑えない。』
中「手前の言動こそ笑えねェよ。」
あいも変わらず甘えるように顔を埋める愛理を見て、“こういう事は太宰としろよ”と云う良識と“俺だけにしかしないでくれ”と云う我儘がせめぎ合う。
そんな事はつゆ知らずの彼女は、
『こんなところ太宰が見たら怒るだろうね。でもね、中也にしか甘えられない。』
と云った。
自信過剰では無いが彼女が弱ったり甘えたりする姿を見せるのは自分だけだ。
俺だけを見てろ。と云おうとしたまさにその瞬間、今一番聞きたくない声が耳に入る。
「そうだね。とても腹立たしいよ……。」