第19章 海月
『其の女に倒されてるのはどなたかしら?男は黙って金稼いで貢げば佳いのよ。』
自分の身体の倍も或るであろう大男が突き出した拳を掴み一本背負いで床に叩きつけた。
まるで汚いものを触ったかのように手を払う彼女に残った二人組が襲いかかる。
中「おっと、手前等の相手は此方だぜ。俺も鬱憤溜まってンだよ。」
愛理の前に立つ中原を見て観客はみな目を逸らす。
が、次に彼を見た時にはかすり傷一つ無く、代わりにあったのはすっかり伸びてしまった男達だった。
中「手前ェ結構酷なこと云うのな。」
『ん?中也も黙って鳴いてて欲しいの?』
中「ちっ、違ェよ莫迦!!」
『じゃあ今夜は黙って鳴いててあげる。』
中「〜〜〜だから手前はなァ……!!」
店内から聞こえたのは大喝采。
誰もが男達が悪いと分かっていながら何も助けることは愚か口を挟むことすら出来なかった。
其れをいとも簡単にやってのけた二人への賞賛の拍手であった。
ナ「お二人共ありがとうございました!とっても素敵でしたわ!!ねぇ、兄様?」
潤「うん。僕からも本当にありがとうございました。」
中「嗚呼、礼なんて要らねェよ。俺が目障りだっただけだ。」
『そうそう!でも次同じ状況に合った時は彼女がしようとした選択が正しいと思うよ。』
まるで先程の行動を読まれていたかのような愛理の言葉にドキリとする。
中「却説、続き食おうぜ!」
『うん!一寸動いたらお腹空いた。時代は省エネじゃないの?』
中「莫迦か。人間は動いた分だけ腹減るンだよ!」
『じゃあ今夜はとってもお腹空くのか……。』
中「ッ!!?手前ェなァ……、未だ引っ張ンのかよ。」
———————と云って夫婦漫才を続けながら席へ戻って行ったんですの!
とってもお似合いで仲がよろしかったので恋仲に見えましたわ!もう一度改めて御礼がしたいですわね!ねぇ、兄様!」
潤「うん、そうだネ。それで、その女性の方が先刻太宰さんから見せて貰った写真の方で。男の名前は………、確か“中也”と呼ばれていた気がします。」
太「………そうかい。教えてくれてありがとう。」