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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第19章 海月




『この私の異能力じゃマフィアは抜けられないからね。』

中「嗚呼、気配を消せる異能なんざマフィアにもってこいだ。———————で、話を戻すとだな。そんなに他の男の視界にすら入れたくない女だ。其れが世界一嫌いな奴と家を行き来してるって知ったら如何すると思うか?」

『うっわ………。』


漸く自分の過ちに気が付いた愛理は頭を抱え込む。
幾ら涼しい部屋とは云えこの暑い真夏に冷や汗が止まらない。
寧ろ此れが冷や汗だと思わざるを得ない状況にすら恐怖を感じる。


『中也、この部屋ってこんな寒かったっけ?』

中「俺は此処最近ずっと寒ィ。」

『そっか。一寸顔洗って来る…。』

中「おぅ、目ェ覚まして来い。だからって酒飲んでンだからな?あんま考えンなよ、倒れるぞ。」


中原の優しい心遣いに涙が溢れそうになるのを堪え、ふらふらと洗面所へ向かった。









中「ったく、最初っから俺のモンになってりゃ佳いのによ。」


一人残された中原は悪態をつきながらすっかり覚めてしまった酔いを取り戻す為グラスにワインを注いだ。















太「———————出ない。」


自宅に居る太宰は耳に当てていた携帯を衣囊に仕舞うと
布団に寝っ転がって頭の下で腕を組む。
既に日課になっている家事は最早何も手に付かない。
何時も彼女のことを考えながらしている分、今は其の作業は苦痛でしかない。
だが明日は可燃ゴミの日、今のうちに纏めておかねば。


太「ふふっ、だいぶ私もヤキが回っているようだ。」


自虐しながら袋を縛り終えると朝出しやすいように廊下に置いておく。
するとそうするのがごく自然のように徐ろに玄関の扉を開けじっとりとした夜の道を歩く。


今朝与謝野と愛理の話をしていると、其の手の話が大好きなナオミと兄で或る谷崎潤一郎が加わって来たのだ。
一通り話終えた後、どんな女性か見てみたいと云う彼女に前に逢瀬した際に撮った写真を見せた。


が、其の写真を見たナオミと兄は眼を見開きお互い顔を合わせた。


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