第19章 海月
中「ほらよ。」
結局一切取り払われることの無い雑念と闘いながら作ったおつまみを出すと、元凶で或る彼女はパァッと眼を輝かせる。
『カプレーゼにアボカドサーモン!其れに野菜スティックまで或る!!流石中也!私の好きなもの分かってる!』
中「俺が好きなモン作っただけだ。」
『生の大根あんまり好きじゃないの知ってるよ?』
中「余計なことばっか覚えやがって…。」
お気に入りの葡萄酒をワインセラーから持ってくると二人分グラスに注ぐ。
『じゃあ乾杯ー!』
中「おう、乾杯!」
中原が初めて食べる冷や汁に舌鼓をうっている間、彼女は何度も美味しいと繰り返しながらおつまみを口にする。
その光景を見て彼は此処二ヶ月思ってきた疑問を口にする。
中「手前彼奴が居るのにこんな生活続けてて佳いのかよ。」
『え?なんで?』
中「自分の彼女が他の男と家行き来してるンだぜ?幾ら相棒とは云え彼奴の事だ、五月蝿ェだろ。」
『うーん、駄目なのかな?』
色付きの良い唇に人差し指を押し当て首を傾げる。
何時もなら可愛いな、と心の中で悶える所だが今は違う。
中「待て待て待て。…ってことは手前何にも云ってねェのかよ!?」
『うん。』
中「マジかよ……。」
ガクッと項垂れる中原に彼女は呑気に心配性だねぇ、と葡萄酒を口にする。
目の前に座る彼女……否、奇行種に自分が懸念している理由を分かるように諭す。
中「相手はあの太宰だ。」
『うん。』
中「彼奴は腹の黒さとずる賢さだけは一流だ。」
『うん。』
中「そして手前に気持ち悪いぐらいにベタ惚れしてやがる。」
『うーん。』
今までの返事とは違い、肯定を渋る愛理に其処からか、と溜め息をついた。
中「手前だけに飽き足らず俺にまで“危険な真似をさせるな”だの“色仕掛けなんて以ての外”だの“露出の多い服は着させるな”だの……。最後なんか個人の自由だろっつっても聞く耳持たねェ。」
『中也も苦労してるンだねェ…。』
中「ほぼほぼ手前の所為だけどな!?」
怒鳴ったお陰で乱れた息を整えごほん、と咳払いをして話を続ける。
中「まァ、要するにだな、過保護すぎるぐらいに愛理に惚れてンだよ。本当だったら手元に置いときたいだろうがそうもいかねェしな。」