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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第19章 海月




『あ"ぁー、今なんかゾクっとした。』

中「こんなクソ暑いのにかァ?」


肩をすぼめて背筋を伸ばす愛理。
其の様子を見て首を傾げるのも無理はない。
一歩外に出れば太陽が容赦なく照り付け更には蝉が求婚の為にこれまた声を張り上げているのだ。


『本当暑すぎる。っていうか中也暑くないの?』

中「暑いに決まってンだろ。俺を何だと思ってンだ。」

『え?奇行種。』

中「生憎だが俺ァ駆逐する側だ。其れに手前の方がよっぽど奇行種だ。」


手に持っている鋸を愛理の方へ向ける。
其処へ彼女は空かさず次の竹を渡す。


『此れで最後だよ。』

中「本気で昨日は死ぬかと思ったぜ。」

『緊急任務って首領から呼び出されたと思えば、“エリスちゃんが流し素麺をしたいと云っているから竹を買って来てはくれないか?”だもんね。』


猛暑が続き、世間でもポートマフィア内でも熱中症で倒れる人が増えているこの頃。
そんな中二人はたった一人の少女の我儘の為に竹を探しに行った。
だが幾ら店を梯子しても竹を売っている所は見つからず結局は其処らへんの山から切り取る事で落ち着いた。(立派な器物破損害。)


中「流石の俺も倒れるかと思ったな。」

『そんな暑苦しい格好してるからでしょ!せめて外套ぐらい脱ぎなよ。』

中「あァ?分かってねェな。外套がねェと締まンねェだろ。」

『じゃあ色を白にして。』

中「マフィアが仕事で白なんか着るかよ!」

『今日の夕食は冷や汁にしよ。』

中「無視かよ!!………俺の分もな。」


話しながらも作業を続ける中原をきょとんとした顔で見る。


『え?中也が作るんだよ?』

中「はァ!?いや、俺作り方知らねェし。」

『……じゃあ今回だけは作ってあげるからちゃんと作り方覚えるんだよ?』

中「手前なんで上からなンだよ……。」


空調設備の効いた部屋に居るにも関わらず出続ける中原の額の汗をタオルで拭ってあげると彼女はあ!と声をあげた。


中「如何かしたか?」

『水も滴る良い男。』


真顔で云う彼女の意図を汲み取ろうと暫く顔色を伺っていたが、其処には何も無かった。
無言で作業に戻った中原は矢ッ張り奇行種は此奴だ、と確信出来たという。



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