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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第19章 海月




武装探偵社のソファーでくつろぐ男の愛読書が完全家事に変わること早二ヶ月。


太「うーーん。」


太宰治は唸っていた。


与「如何したンだい?アンタが悩むなんて珍しいじゃないか。」

太「婚約者の為に色々と勉強しているのだけれど、どれも合理的では無いのだよ。」


ほら。と先程まで読んでいた本の頁を見せると座り直した。
彼女はザッと目を通すと納得したように笑う。


与「“見せない収納”って云うのは家庭感を出さない為のものさ。使いやすいか如何かは二の次なンだよ。」

太「調味料なんて戸棚にしまうより見える所に置いてた方が料理しやすいでしょ。」

与「視界に入ることが嫌な人も居るって事さ。」

太「うーん。」


腕組みをする全く腑に落ちていない彼を見て、此れは何を云っても無駄だ。と思った与謝野は唯一納得するであろう言葉を告げた。


与「まァ其処ら辺は相手と相談して決めるンだね。」

太「そうだね。ありがとう、与謝野先生。」

与「如何いたしまして。」


彼女と将来の話について語るのも悪くない……否、寧ろとても良い!とウキウキしている太宰。
此れは彼がどん底に突き落とされる数分前の話である。

























太「………何も聞いてないんだけど。」


哀しみと怒りが入り混じった声色は探偵社内を鎮めるには充分過ぎた。
何時も飄々として心の内を読ませない男が此れだけ感情を露わにしているのだ。
つまりは今は其れ程余裕が無いという事になる。


敦「いや………でも人違いかも知れませんし…。」

太「あんな特徴的な男は他に居ないでしょ。」

ナ「ナオミが余計なことを云ったせいですみません。」

太「君は気にしないでくれ。悪い芽は早く摘んでおくに限るからね、そう云う意味では感謝しているよ。」


彼はすっかり落ち込んでしまったナオミに慰めの言葉をかける。
彼女は悪くない、偶々其の場に居ただけなのだから。
本当に悪いのは………、




彼等なのだから。








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