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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第18章 拾い者と落し者 其の二




芥「嗚呼。僕は如何も嫉妬深いらしい。」


云い終えたと同時に唇に暖かいものが触れた。
其れが彼の唇だと気付いた時には口付けは既に深いものに変わっていた。


『んぅ……んんっ、りゅう……の…………すけ…。』

芥「……はぁ…………何だ。」


艶っぽい吐息の後、訝しげに眉間に皺を寄せて愛理を見る。
その機会を逃すまいと彼女は脳内を必死に切り替え問い詰めた。


『いきなり如何したの!?』

芥「知らん。身体が勝手に動いていた。」

『何それ、全然答えになってないし!』


愛理は頬を膨らませ怒ってみせるが心なしか口角が上がっている。
目ざとく其れを見逃さなかった芥川は漸く自分の感情に名前を付ける事が出来た。


芥「貴様に名を呼ばれるのは心地好い。」

『?』

芥「して、これからも側にいろ。」


張り詰めた空気に変えたが故に流石に真剣なのだと悟る。
だが生まれてこのかた、色恋沙汰独特の雰囲気がこっ恥ずかしい愛理は矢張り何時もの冗談交じりで返すしかなかった。


『相棒としてならお断り。』

芥「貴様は阿呆か。伴侶としてに決まっておろう。」

『ゔっ、うん、そうだよね…。で、でも私いつか裏切るかも知れないんだよ?』

芥「先刻云ったであろう。其の時は連れ戻し一生閉じ込めてくれる。」


先程述べたことは本気なのだと突き付けられると同時に彼の想いの強さを知る。
何とかこの甘ったるい空気から逃れたい愛理は別の話題を探すべく眼をキョロキョロと動かす。


『そっか、うん、じゃあ宜しく!!…あ!食器洗ってくるからさ、お風呂入って来なよ!』

芥「待て。………嫌、か?」

『ちっ、違う!そうじゃなくて!』


立ち上がって背を向けた彼女の細い腕を掴むと無意識にほんの少しだけ力を込めた。


芥「では何故話を逸らす。」

『そっ、それは……』

芥「気を使わずとも佳い。思ったままを告げてはくれぬか?」


弱々しい声を出す彼に思わず振り返ると俯いていた為表情は伺えなかったが、其れはまるで縋り付く幼子のようだった。


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