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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第18章 拾い者と落し者 其の二




『先刻はごめん。私酷いこと云った。』

芥「何を云う。謝るのは僕の方だ。怖い思いをさせてすまぬ。」

『だって!私よりによって敦と比べようだなんて「貴様にとって、」……?』


珍しく話を遮った芥川に首を傾げると告げられた言葉は思いもよらないものだった。


芥「貴様にとって人虎はどんな奴だ。」

『………へ?』


何の脈絡も無い問い掛けに戸惑うが少し寂しげにも見えるその眼を見てそのままを話すことを決めた。


『んー、素直で純粋で揶揄いがいがあって……そう云えば良く治と揶揄って遊んでたなぁ…。あと常識或って真面目なんだけど何処か抜けてて、だから放って置けなかった!名前を呼ぶと嬉しそうな顔してたなぁ……。』


探偵社に居た頃を思い出せば楽しい思い出と共に敦の顔が浮かぶ。
誰かが発する一言一言に一喜一憂して。
そんな彼を見るのが楽しかったのだ。


芥「戻りたいとは、思わぬのか?」


口に手を当てけほけほと咳をしながら又もや憂いを帯びた眼で此方を見る。
彼はこんなに表情豊かだっただろうか。


『今の相棒は龍之介でしょ?』

芥「戻りたいか否かを聞いている。」

『……………楽しい事ばかりだったからね。戻れるなら戻りたいかも。』

芥「…………そうか。」


あからさまに意気消沈している芥川を見て愛理はクスクスと笑いながら話を続ける。


『でもね、戻らないって決めたのは私。思い出せば戻りたくなるのは当然だよ。けど此処でも楽しい思い出を作ろうって決めたし、龍之介となら其れが出来そうな気がする。』

芥「後悔せぬか?」

『するならとっくにしてる。……というか私が探偵社に戻りたいって云ったら如何するのよ。』

芥「其の時は連れ戻し一生地下に監禁してやろう。」

『ふふっ、龍之介って束縛強そう。』


龍之介なら本当にそうしかねない、と容易く事を想像出来た彼女は彼が近くまで来ているのに全く気付かなかった。


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