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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第18章 拾い者と落し者 其の二




あの後首領室を出た二人は遊撃隊隊長室。
つまりは芥川の執務室に居た。
本来であれば互いに自己紹介等を済ませ相手の事を知る為に雑談をするのであろうが其の相手が悪い。
無駄話をしない彼は執務室に着いてからと云うものずっと沈黙を保っていた。
————しかし其の沈黙を破ったのは彼女だった。


『ねぇ。』

芥「なんだ。」

『太宰治。』


かつての恩人でもあり師匠でもあった名前を耳にした彼はぐるんと振り向く。
すると彼女はお腹を抱えて笑っていた。


芥「何故笑う。」

『いやっ、治に執着してるとは聞いてたけど……。本当なんだなぁって!ふふっ、犬みたい!!』

芥「貴様僕を愚弄しているのか?」

『違う違う!可愛いなぁってだけ!』

芥「矢張りそうであろう。」


褒め言葉の心算で云ったもののそうとは受け取って貰えなかった愛理は咄嗟に身をかわした。
自分が先刻まで立っていた所には見事なまでに黒獣がいた。


『一寸!床に穴開けたらどうするの!治すのは貴方じゃなくて業者の人なんだからね!』

芥「そんな事は知らぬ。元はと云えば貴様が悪い。」

『本当、治の云う通り血の気が多いんだから…。』

芥「………太宰さんの知り合いか?」


またもやピクリと反応した芥川に笑いを堪えながら彼女は答える。


『あのねぇ…….気付くの遅くない?首領と話してた時点で気付こうよ!』

芥「けほっ、だから今聞いている。」

『うーん………知り合い、と云うより同僚?』

芥「ッ!?貴様、武装探偵社か!」

『うん、だから遅いよね。先刻の話聞いてたでしょ?今はポートマフィアの一員。貴方の部下。』


眼を見開き即座に戦闘態勢に入った芥川を物ともせず冷静に突っ込みを入れる。


芥「諜報員にでもなる心算か。」

『スパイだったら云わないでしょ!其れにそんな心算があればわざわざ遊撃隊所属なんてならないよ。』

芥「………そうか。けほけほっ」


ふむ、と納得したらしい彼は乾いた咳をする傍らで彼女はまた笑っていた。


芥「次は何だ?」

『ふふっ、いやっ、矢っ張り可愛いなと思って!』

芥「どうやら貴様も人虎と同じく懲りぬ奴らしい。」


ビュンッ


『だーかーら、床に穴開くって!!』

芥「知らぬ。」

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