第1章 貴女は僕の太陽
さんに連れられてやって来たのは、最近完成した大型の水族館だった。
「ずっとここに来たかったの。ここの大水槽はこの辺りでは一番の大きさなんだって」
ニコニコと、まるではしゃぐ子どものように軽やかな足取りで数歩前を歩くさんが言う。
サラサラと揺れる黒髪が、とても綺麗だ。
「おいおい、あんまりはしゃぐと転ぶぞ」
口ではそう言いながらも楽しそうな表情の先生が、さんの後に続く。
「お兄ちゃんったら、もうそんな年じゃないよ」
「ははは、そうだな」
少し頬を膨らませたさんに言い返されて、先生が笑った。だが破顔するほどの笑顔ではなかった。惜しい。
さんとそっくりな先生の笑顔を、また見たかったのだが。
平日であるにも関わらず、水族館には大勢の客が訪れていて、特に大水槽の前は混雑していた。
小柄なさんは背伸びをしたり、ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねたりしてもあまり見えないようだった。
その仕草が、あまりにも可愛い。
「、お兄ちゃんが肩車してやろうか?」
「えぇっ!!お兄ちゃん、私を一体いくつだと思ってるの?!」
さすがのさんも、のけぞって驚いた。
先生、悪気が全くないのは分かりますが、さすがに22歳の女性に言うことではありません。
「え~、昔はよくやっただろ」
「子どもの頃の話でしょ」
少し首をかしげて、先生は不思議そうな表情をした。
こんな顔をする時、さんと先生はやはり兄妹なんだなと思う。
さんも、たまにこんな表情をしてこんな仕草をするからだ。なぜこんなにも見た目が違うのに、同じ顔ができるのだろう。